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おと……こ? 第5話

 椅子に深く座って改めて店内を見渡す。  店内には耳に心地いい音量でゆったりとしたBGMが流れている。  深呼吸をすると、コーヒーの香りがふわりと鼻腔をくすぐった。  マスターと常連客の会話が聞こえて来るが、どちらも良い声をしているのでラジオでも聞いているような気分になって来る。  もう1人の客は本に集中しているように見えたが、時々マスターと常連客の会話に参加しているところを見ると、本は持っているだけで意識はマスターと常連客の方に向いているようだ。    それにしても、この店で一番の謎はあのマスターだな。  最初は微妙な笑顔に機嫌が悪いのかと勘違いしてしまったが、ただの人見知りで緊張して顔が強張っていただけだなんて……    客商売なのに人見知りってどういうことだ?  マスターになって日が浅いとか?  常連客と話しているマスターは、さっきの強張った笑顔が嘘のように、自然な笑顔で楽しそうに会話していた。  その姿に少しむっとする。  なんだ、ちゃんと笑えるんじゃないか。  俺にもあの笑顔見せてくれたらいいのに……って、何言ってんだ俺!?  マスターに対してふと浮かんだ自分の感情に驚く。  笑顔が見たいとか、相手は男だぞ?   常連客に嫉妬してるとか、意味がわからない……  ちょっと落ち着けよ俺!  ほら、どこからどう見てもマスターはおと……こ?  マスターは、よく見ると結構整った顔立ちをしている。  というか、美人だ。  少し長めの髪を後ろで結んでいるので、髪を下ろして少し化粧をしたら、女だと言われても信じてしまいそうだ。  モテるんだろうな~……  マスターって何歳なんだろう?  口調と顔立ちは落ち着いているように見えるけど、笑うと少し幼く見えるし……  俺と同じくらいか?  そんなことを考えていると、マスターと目があった。 「もう少しなので、お待ちくださいね」 「あ、はいっ!」  コーヒーを待ちきれなくて見ていると思われたのか?  恥ずかしくなって、視線を窓の外に移した。 ***

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