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幸せな記憶 第6話
デザインガラスを通して見る景色は、少し歪んでいて面白い。
そういえば、子どもの頃もこうやってデザインガラス越しに外を眺めたっけな。
大きくなるにつれてガラスへの興味は薄れていったけれど、代わりに年の離れた妹が同じように窓ガラスに張り付いて外を眺めていた。
あいつ……夢中になってくると顔面をぎゅぅ~って押し付けてガラスにキスしてたから、ガラスが涎でデロデロになって……よく俺がティッシュで拭かされたっけ……
反対側から見ると、唇とムチムチのほっぺたがガラスにぺったりくっついて、なんとも芸術的な顔が見えた。
村雨がそれを見て笑うと、妹が喜んで「にいに~みて~」と何回もやって見せてくれた。
それからは、妹が村雨のものを壊してしまったり、邪魔をしたりして村雨が怒ると、必ず「に゛い゛に゛~み゛で~」とデスボイスで涙と鼻水だらけの顔をくっつけていた。
村雨が親に叱られて機嫌が悪いときにも、やって見せてきた。
汚れたガラスを拭くのは村雨なので、しつこく繰り返す妹に少しうんざりしてきた頃、母に「お兄ちゃんに笑って欲しいんだよ」と言われてはっとなった。
まだ幼いくせに、妹は怒った顔をしている村雨を必死で笑わせようとしていた。
まだ「わらって」と上手に言えないので、その代わりに村雨が喜んで笑ってくれたことをして笑わせようとしていたのだ。
「なんだよそれ……ばかだなぁ……」
なぜだか涙が溢れてきて、泣いている顔を見られたくなくて妹を抱きしめた。
妹を何よりも愛おしいと思った。
あの時は、本気で俺が一生守ってやるって……思ったんだよな……
幸せだった遠い記憶に思わず、顔が綻んだ――
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