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恋愛観 第11話
『レインドロップ』に行きたい……
村雨にとって雨の日と同じくらい憂鬱なのが、誰もいない家に帰ることと、休養だ。
村雨は、仕事が好きだ。
雨の日の自分がほぼ使い物にならないことは自覚しているので、その分も晴れの日にがむしゃらに働いている。
常に勉強を必要とする今の仕事は、村雨には都合がいい。
夜一人でいると、昔の嫌なことを思い出してしまう。
だから、思い出す暇がないほど忙しく働いて、勉強して、クタクタに疲れてそのまま泥のように眠りたいのだ。
あ~行きたいな~。
癒されたい……
仕事が好きでも、精神的に疲れることはある。
睡眠時間が少ない分、余計に『レインドロップ』のような癒しは必要だ。
仕事の帰り道、電車に揺られながらふと浮かんでくるのは、『レインドロップ』のあの懐かしい雰囲気と、マスターの笑顔だった。
いや、だから俺は別に男が好きなわけじゃないよ!?
軽く頭を振って、マスターの笑顔を頭から追い出した。
現在村雨に交際相手はいない。
あのマスター程ではないが、村雨もそれなりに顔が整っているので、職場の子や得意先の子から告白されることはある。
でも、全部「今は仕事を覚えるのに必死で、恋愛をする余裕がない」と断っていた。
高校、大学と数人の女の子と付き合った。
告白されて、なんとなくOKしたものばかりだが、一応付き合っている時は相手のことを可愛いと思っていたし、好きだとも思っていた。
だけど、別れる時にはだいたい「真樹って誰にでも優しいよね、他の子に優しくするのやめてよ!」「本当は私のことそんなに好きじゃないんでしょ?」と言われた。
女の子は難しい……
「みんなに優しい村雨くんが好き」と言っていたくせに、付き合い始めると自分だけに優しくして貰いたいらしい。
村雨は自分のことをそんなに優しいとは思っていない。
ただ、困っていたから手伝ってあげたり、頼まれたからやってあげたりしていただけなのだ。
それを誰にでも優しいと勘違いされてしまう。
最後に付き合った彼女とも、彼女の方がだんだんと仕事を理由にドタキャンすることが続いたのに、別れる時には「私のこと好きじゃなくなったんでしょ?」だった。
女の子は難しい……
俺は好きだったから連絡を取っていたわけで、彼女が会いたいと言えば、会いに行っていたし、休みだって彼女に合わせて取っていた。
これだけしていて、なんで好きじゃないってことになるんだ?
好きって一体何なんだよ……
俺の恋愛観がおかしいのか?
そんな恋愛を繰り返したせいで、若干女性不信になっているのは否めない。
自分の恋愛観がよくわからなくなってしまったので、今は誰とも付き合う気にならない。
だけど、決して女の子が嫌いなわけではない。
その証拠に今まで男に対してそういう感情を抱いたことはないし、性欲処理のおかずは女の子だ。
だから、マスターのことを可愛いとか思ってしまうのは、恋だとかそういうんじゃなくて、ただ、友達としての好きというか、同性としての憧れというか……いや、それはなんか違う気がするな――
そういえば、今まで付き合った子が他の男と浮気してもそんなにショックを受けたことはないのに、マスターが常連客と仲良くしてるところを見ると、たまにむっとするのは……なんでだ?
今日もそんなことをごちゃごちゃと考えているうちに、自宅に着いた。
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