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春海の憂鬱 第20話(春海)

 あの台風の日に両想いだったことがわかって、春海は村雨と付き合うことになった。  あれから約2か月。  村雨さんは、ほぼ毎日のように仕事が終わると『レインドロップ』に来てくれる。  閉店時間まではいつもの席で何やら難しい本を見ながら勉強をしている。  閉店後は店の片づけを一緒にしてくれて、その後は2階に上がって晩御飯を食べたり借りてきた映画を観たりして二人でまったりと過ごす。  二人で過ごす時間は、男友達といる時の気楽さと恋人といる時の甘さが混じりあった感じで、なんだか心地いい。    村雨さんは、スキンシップが好きらしい。  何かにつけて抱きしめたり、キスをしたりしてくれる。  まだ少し恥ずかしいけど、村雨さんの体温や匂いは安心するので、いっぱいくっついてくれるのは嬉しい。  が、今のところキス止まりだ。  お互い、同性を好きになるのは初めてで、その先が未知の世界すぎてなかなか踏み出せずにいる。  いや、踏み出せないのはわたしのせいか……  春海は手元の画面を見てため息を吐いた。  男同士でもできるのはわかったけど……  村雨さんと付き合うようになってから、同性愛についていろいろと勉強しているのだが、セックスは……正直怖い。  だいたい、どっちがどっちをするの?  村雨さんは……恋愛経験多そうだし、やっぱり入れる方だよね……となると、わたしが入れられる側なわけで……  でもお尻でしょ?お尻ってあのお尻だよ!?お尻とか無理だよぉ~……!!!  春海も童貞ではないので、セックスがどういうものかはわかっているし、女の子相手にでもお尻を使う場合があるのも知っているけれど、それを自分が経験するとなると話は別だ。  春海はもともとそんなに性欲が強い方ではないので、プラトニックな今の関係でも十分満足できるのだが、村雨は……たぶん春海に合わせてくれている。  どうしよう……  この年齢になって、思春期のように毎日セックスのことばかり考えるようになるとは思わなかった……いや、春海は思春期の頃からそんなに性欲は強い方ではなかったので、今が人生で一番セックスについて考えているのかもしれない。    このままプラトニックな関係が続けば、村雨さんは「やっぱり女の子の方がいい」ってなっちゃうのかな?  でも、思いきってセックスするとして、わたしの裸を見て「やっぱり萎えた」とか言われたらそれはもっと辛い……    村雨はそんなことを言うような人ではないとわかっている。  春海に対してすごく優しいし、本気で嫌がるようなことはしない。  春海の身体をいつも気遣ってくれるし、自分で気がつかないうちに無理をしてしまっている時は、それとなく休養を取るように促してくれる。  自分で言うのは照れるけれど……愛されていると思う。  だから余計に不安になる。  嫌われたくない。  ずっとそばにいて欲しい。  村雨さんのことを知る度に、どんどん好きな気持ちが大きくなっていく。  それなのに、村雨さんに我慢をさせてしまっているのが心苦しい……  どうしよう……  ふと窓を見ると、向こうから常連客が歩いてくるのが見えた。  慌てて画面を消して、大きく息を吐くと、両頬を掌でパンパンと軽く叩いた。  よし、とりあえず今は仕事仕事!!  気持ちを切り替えて、常連客が入って来るのを待つ。 「いらっしゃいませ!」 ***

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