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村雨の憂鬱 第21話(村雨)

 春海と付き合うようになってから、村雨は毎日のように『レインドロップ』に行っている。  営業時間内に行った時は、いつもの席で勉強をして時間を潰せばいいし、営業時間を過ぎてしまった時でも、連絡を入れておけば春海が鍵を開けて待ってくれている。  一緒に晩御飯を食べて、まったりと過ごす。  特別なことをするわけではないが、二人で過ごす何でもない時間が心地よくて、春海の笑顔に癒される。  春海は、付き合った当初は緊張してよそよそしい感じだったが、最近はだいぶ自然に会話をしてくれるようになった。  付き合って最初に驚いたのは、春海が結構年上だったこと。  村雨よりも5歳も上で三十路前だった。  いや、アラサーには全然見えませんけど!?   同い年くらいだと思っていた……  向こうも、村雨のことは同い年か年上だと思っていたらしい。  ん?それって俺が老けてるってことなのか?  まぁいいけど。  別に春海さんが何歳だろうと、年齢で好きになったわけではないのでぶっちゃけどうでもいい。  でも一応年上なので、付き合ってからも口調は前のままだ。  春海はそれがちょっと不服らしい。  付き合っているのだからタメ口でいいと言う。  タメ口でいいと言われても……  そういう春海も口調は前のままだ。  春海の場合は、もともとそういう口調なのかもしれないが、なんとなく村雨もつられてしまう。    それに俺はタメ口よりも、名前で呼びあいたいんだけど……  いまだにお互い名字呼びだ。  「(りつ)さん」って呼びたいけど、なんだかまだ気恥しい。  春海も、村雨のことを「真樹(まさき)」とは呼んでくれない。  話口調だとか、呼び方だとか、そんなことで悩むなんて中学生の恋愛かよっ!!  思わず自分にツッコんで苦笑した。  そんなことで悩めるのもなんだか楽しい。  春海は年上とは思えないくらい初心な反応をする一方で、やはり一人で店を切り盛りしてきただけあって芯が強い。  物腰が柔らかくあの見た目なので守ってあげたくなるが、精神的には村雨よりもよほど男らしいのではないかと思う時がある。  女の子と付き合っていた時は、自分の弱さを相手に見せるようなことはできなかった。  でも、春海はたぶん村雨の弱さもダメなところも全部受け入れてくれる気がする。  もちろん、村雨も春海のどんな部分も知りたいし、受け入れる自信はある。  そんな感じで、春海との恋愛は順調……のはずだが……  実はまだキスから先には進めていない。  ハグやキスはさせてくれるけど、それ以上になると春海の身体が強張ってしまう。  お互い同性を好きになるのは初めてだから、身構えてしまうのは仕方ないと思う。  一応いろいろと調べてみたけど、男同士だと入れられる側は何かと大変らしい……  春海さんがどっち側がいいのかわからないけど、どちらにしても今はまだ難しそうだ。  だから、春海さんの心の準備ができるまでは気長に待つつもりだ。  無理やり押し倒して嫌われたくないし……怖がらせたくもない。  今はいっぱい話をしてお互いのことを知っていけたらそれでいいと思っている。  とは言え、本心としてはせめてハグとキスは毎回したい。  もっと言えば、エロイ事もしたい!!  そこはやっぱり……俺も男だし!?  好きな人と一緒にいるのに何もできないのは辛い。  10代ほどじゃなくてもまだまだ性欲はありますから!! 「(いて)っ……」  そんなバカなことを考えながら歩いていたら、柱にぶつかった。 「おまえ何やってんの?」  ちょうどぶつかったところを先輩に見られてしまった。 「いやちょっと、本能と理性の間で迷子になってました」 「は?おまえ大丈夫?欲求不満なの?女の子紹介する?」 「間に合ってます。っていうか、先輩こそ何してるんですか?」 「俺はこれから帰るところ。おまえも早く帰れよ」 「はーい、お疲れ様です」 「お疲れ~!」  よし、俺も早く春海さんに会いに行こう――     ***

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