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優しい涙 第26話(春海)
「それにしても、春海さんの能力凄いですね。俺よりも俺のことがわかってる。自分ではよくわかってなかったけど……俺泣けない自分が許せなかったんですね……そうかぁ~……」
村雨が、春海を抱きしめたまま話を戻した。
え、この体勢で話を続けるんですか!?
「あ……あの、でもそれはわたしが感じ取った感情から勝手に推測しただけなんで……」
「いや……俺あれから一度も泣いたことがないんで、もしかしたら自分はすごく冷たい人間なんじゃないかって悩んだ時期もあって……感情がどこかぶっ壊れてるんだろうなって。だから俺にも一応人並みの心が残ってたのがわかって良かったです」
村雨が、ちょっと笑って春海の肩に顔を埋めた。
「冷たくなんかないですよ!だって、村雨さんは――」
涙を流さなくても、雨の日の村雨はいつも泣いていた。
共感しないように壁を作っていたけれど、それでも春海の胸が痛くなるくらいに……
村雨は泣けない自分を責める自分自身に押しつぶされそうになっていた。
そんな人が冷たい人間なわけがない……っ!
「村雨さんは……優しいです!……村雨さんが本当に冷たい人だったらわたしは好きになってません!」
今も気を抜いたら村雨さんの感情に引きずられる……
共感して泣きそうになるけど、村雨さんが泣けないのにわたしが泣くのは何か違う気がして……
春海は、村雨の顔を両手で挟むと、涙を堪えて真っ直ぐに目を見た。
「だから、もう自分を許してあげてください。本当は村雨さんが誰よりも優しくて泣き虫なのはわたしが知ってますから」
村雨が驚いた顔で目を大きく見開いて春海を見た。
「…………春海さんには敵わないな……」
呟きながら春海の手を握って、ふふっと苦笑した村雨の目からぽろっと涙が零れた。
「あ……れ?」
「村雨さん……?」
「え、なんで?なんだこれ……ちょっと待ってください……っ」
村雨が次々に溢れる涙に混乱して、手でゴシゴシと目を擦った。
「あぁ、手で擦っちゃダメですよ!」
「だって……っなにこれ……っ」
「心配しなくても、涙が出てるだけですよ」
「え、でも……どうしようこれ……どうやって止めるんですか……?」
「止めなくていいですよ。せっかく泣けたんだから、思う存分泣いちゃってください!」
「なんですかそれぇ~……っ……」
さっきとは逆で、春海がティッシュで村雨の涙を拭いていく。
あれ?待って……この村雨さん……可愛いっ!!
数年ぶりの涙に戸惑い不安そうにあたふたしている村雨の姿をたまらなく愛おしいと思った。
あと、村雨さんの泣き顔が可愛いっ!!!(2回目)
なにこれ、反則でしょ!?
「はるみさぁ~ん……どうすればいいのこれぇ~……っ」
待って、だから、泣き顔に甘え口調はズルいですって!!!
このままだと変なことを口走ってしまいそうだったので、黙って昼間のように村雨を抱きしめた。
ちょっと落ち着こう!
涙が出たきっかけはよくわからないけれど、とにかくこれで泣く感覚が戻れば、雨の日の体調不良も少しはマシになるかもしれない。
「良かったぁ……」
村雨がようやく泣けたことに安堵して、春海も涙が出た。
「え?あ、そうかっ……ごめんっ!!」
春海も泣き出したのを見て、村雨が慌てて部屋の隅に移動した。
「村雨さん?なんでそんなところに……?」
突然の行動にびっくりして、春海の涙が止まった。
「だって、俺が泣いてるせいで春海さんもつられて……」
村雨は、春海の涙を共感力のせいだと思ったらしい。
「あぁ、これはつられたっていうよりは……うれし涙というか安心した涙というか……とにかく自分の感情なんで大丈夫ですよ」
「……俺につられない?ホントに近くにいて大丈夫?」
泣きながら心配そうに春海を見つめる姿は、どう見ても捨て犬(大型犬)だった。
「大丈夫です。今はちゃんとコントロールしてますから、つられませんよ。だから戻ってきてください」
こんな時でも、自分のことより春海のことを気遣ってくれる村雨の気持ちが嬉しかった――
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