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ハロウィン 第29話(村雨)

 10月ももうすぐ終わるという頃、いつものように一緒に晩御飯を食べていると春海が手作りのポスターを見せてきた。 「ハロウィンパーティー?」 「はい。毎年常連さんだけで一日貸し切りにして、ハロウィンパーティーをしてるんです。良かったら、村雨さんも一緒にどうですか?」 「え、俺も来ていいんですか?」 「もちろん。村雨さんはもう常連さんですし!あ、でも一応参加者は何か仮装をするのがルールなんですけど……別にハロウィン関係ない感じのホントに簡単な、頭に猫耳つけるとかそんなのでもいいので……」  ハロウィンパーティーか。  仮装……ねぇ……?  確か、学生時代に―― ***  ハロウィンパーティー当日、仕事が長引いてちょっと遅くなった。  着替えどうしようかな……春海さんに電話してみるか。 「はい、カフェ『レインドロップ』です!」 「あ、春海さん?村雨です。すみません、今仕事終わったんですけど、着替えどうしましょうか……」 「お疲れ様です!あ、良かったら2階で着替えますか?店通らなくても横から入れますよ」 「じゃあ、そうします――」  だいぶ盛り上がってるな。  春海の背後から、常連客たちの陽気に騒ぐ声が聞こえた。  店の近くでもう一度連絡すると、鍵を開けておきますと言われた。 「村雨さん?お疲れ様で……」  着替えていると、春海が入って来た。  村雨が振り返ったところで、お互い固まった。 「え……は……春海さん?」  村雨の目の前に、フリフリメイド姿の春海がいた。    え?何?メイドって、春海さんがメイド!? 「かっ……」 「かっ……」 「カッコイイ!!」 「可愛い!!」  んん?  思わず心の声が漏れたが、同時に春海も喋ったので、声がダブってなんて言ったのか聞き取れなかった。   「え~と……春海さんよく似合ってますね!」 「そういう村雨さんこそ!それってドラキュラですか!?凄くカッコイイですね!!」 「あ~……学祭で仮装した時のやつなんですけど、こんなんでもいいですか?」 「全然大丈夫ですっ!!」  頬を赤らめて笑う春海は、完全に性別を見失っていた。  違和感仕事して!!!いくら可愛くても男だし、三十路前だよこの人!?  あれ?男?春海さんって男だっけ……いや、男だよね!?  あ~もう可愛いすぎだろっ!!なんでこんなに似合ってるの!?  ウィッグもフリフリスカートもタイツもメイクも……メイク!?   「春海さん化粧してます?」 「え?あぁ、ちょっとだけ。わたしのは……毎年のことなんですが常連のお姉さん方にちょっと遊ばれました。メイクは、ナチュラルメイク?とかいうやつらしいですけど……まぁ、皆さんが楽しんでくれたらいいので、わたしは毎年お笑い担当なんです」  いやもう、ガチすぎて笑えない……  でも常連のお姉さん方Good Job!! 「ちょっと写真撮っていいですか!?」 「ど……どうぞ……あ、わたしも村雨さん撮りたいです!」  二人で写真を撮りあっていると、常連客が春海を呼び戻しに来た。 「とりあえず、店の方に行きますか。みんなもう乾杯しちゃってだいぶお酒入っちゃってるんですけど……」 「一日中飲んでるんですか?」 「さすがにそれはないですよ~!今日は昼前に集まって――」  毎年町内会でハロウィンをしているらしい。  昼前に町内会のみんなで『レインドロップ』にお菓子を持ち寄って、それを小袋に詰めていく。  昼過ぎから、近所の子どもが仮装して町内を練り歩くので、その小袋を渡してあげるのだ。  子どもたちのお楽しみが終わったら、夕方からは大人のハロウィンパーティー。  まぁ、一応仮装はするものの、ただの宴会だ。  それをなぜカフェでするのかというと、春海の祖父が町内会の会長をしていたことがあって、その時からの恒例になってしまったらしい。  店に下りると、もう完全に出来上がっている常連客でごった返していた。  それぞれが持ち寄ったという大量の酒と、春海が作った料理がテーブルの上に並ぶ。  うん、学生の飲み会も大人の飲み会も、酒が入ってしまえばもうたいして変わらないな。    基本的には笑い上戸の人が多いらしく、店内は陽気な雰囲気に包まれていたが、たまに泣き上戸の人もいて、泣いているミイラ男を狼男が笑いながら慰めるというようなカオスな状態になっていた。  村雨も早々に顔見知りの常連客に捕まって、ビンゴ大会に巻き込まれた――   ***

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