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安心してください! 第28話(村雨)

「ふふっ」  春海の作った朝ごはんを食べていると、春海が急に笑い出した。 「ん?……あ~……俺の顔、そんなひどいですか……?」  村雨は自分の顔に手を当てた。  さっき洗面所で自分の顔をマジマジと見てきた。  春海さんが昨夜タオルでケアをしてくれたのと朝風呂に入ったおかげで、もう腫れはそんなにひどくないけれど、目元は少し赤くなっていて顔もいつもよりむくんでいた……  泣いたらスッキリするとよく聞く。  うん、長年溜まっていたしこりのようなものが少しなくなったような気がする。  でも、それとは別に……昨夜の自分の数々の醜態を考えると……  大学時代、3日間徹夜した後に酒を飲みまくって二日酔いになった時よりひどい気分だった…… 「あぁ、違いますよ。そうじゃなくて……嬉しくて」 「嬉しい?」 「だって、誰かと……こうやって朝ご飯を食べるのは久しぶりで……」  春海は4年前にお爺さんが亡くなって、ひとりぼっちになったらしい。  親戚がいるらしいが、海外に住んでいるとかであまり会えないとか。  二人は、なんとなく境遇が似ている。  だから惹かれる部分もあるのかもしれない。 「俺も、誰かと朝ごはんを食べるのは久しぶりですね……」  夜は誰かと食べに行くこともあるが、朝は一人だ。  彼女がいた時も、会うのは外ばかりだったので、朝ごはんを作ってもらうということはなかった。 「そうなんですか?ご飯は誰かと食べた方が美味しいですよね!」  春海が嬉しそうに笑った。  朝から春海さんの笑顔が見られるのは、いいものだな……   *** 「あ、そうだ!昨日ってもしかして俺がベッド占領しちゃってました!?」  食後、せめてこれくらいはと皿洗いを買って出た。  料理は苦手だが、こういうのは得意だ。  テキパキと洗いながら村雨は、さっきから気になっていたことを聞いてみた。  村雨は目が覚めた時ベッドにいた。  自分でベッドに入った記憶はないのだが、俺がベッドを占領していたとしたら、春海さんはどこで寝たんだろう……!? 「え?わたしも一緒にベッドで寝ましたよ?」 「え?」 「あ……」  さらっと答えた春海が、しまった!という顔をした。 「えっと……あの、村雨さんが離してくれなかったので……」 「うわ、すみませ……ん?」  あれ?でも俺が寝た後、目にタオルを当ててくれてたってさっき…… 「あ~~~……嘘ですごめんなさいっ!村雨さんが寝た後、腕はほどけたんですけど……その……こっそり隣に寝ちゃいました……ごめんなさいっ!!でもあの、何もしてないですからっ!!ほんとにただ寝ただけで……だから安心してくださいっ!!」  は?なに?俺を萌え死にさせたいの……!?  真っ赤な顔で必死に弁明している春海が可愛くて、思わず真顔になった。  っていうか、安心してくださいって……俺が襲われる側なの!?  それはそれで…… 「いや、何かしてくれても全然良かったんですけど」 「ええ!?」 「まぁ、どうせするなら俺が起きてる時にして欲しいですけどね。で、何をしてくれるつもりだったんですか?」  濡れていた手を拭いて、ソファーであわあわしている春海の隣に座る。 「……いや、だから、何もしませんってばっ!!」  春海が照れ隠しにプイッと横を向いた。 「まぁ、そうですよね~、俺ひどい顔してるし、泣き疲れて寝るようなダサい男に手を出す気になんてなりませんよね~……」  村雨がちょっといじけてソファーの背に突っ伏した。 「え、そんなことは……っ!?」  春海が慰めようと村雨の肩に手を置いた。  その手を掴んで振り向き、びっくりした顔の春海に軽くキスをする。 「隙あり!」 「……ぅ~~~~っ!!騙されたぁ……」 「はは、騙してませんよ。落ち込んでるのは本当ですから」  苦笑しながら、真っ赤な顔で俯く春海の頭をポンポンと撫でた。 *** 「……あっ!そうだ、コーヒー!!!」 「ん?」  突然春海が立ち上がって、店の方に下りて行った。  春海を抱きしめようとしていた村雨の腕が虚しく空を切る。  えぇ~……!?  茫然としていると、下から春海の声が聞こえた。 「村雨さぁ~ん、ごめんなさい!実は今日――」  今日は、常連客のゲートボール大会にコーヒーの出張サービスを頼まれていたらしく、店を閉めて持って行くらしい。  昼休憩に間に合うように持って行ったら、後はそのまま買い出しに行くつもりだと言うので、村雨も一緒について行くことにした。  『レインドロップ』は不定休で、こうやって急に出張サービスが入って店が休みということも多いらしい。  でも、休みの理由が出張サービスなので実質的には年中無休だ。  二人で過ごせるのは貴重なので、できるだけ一緒にいたかった。  村雨としては、せめて月一でも定休日を作ってちゃんと休んでほしいと思う……  デートがしたいというのもあるが、なにより春海の体調が心配だ――  ゲートボール大会の出場者は店の常連客がほとんどだと言うだけあって、村雨の知っている顔もちらほらいた。  春海を子どもの頃からわが子のように見守って来た『レインドロップ』の常連客は妙に勘が良い。  コーヒータイムが終わっても、なんだかんだと理由をつけて春海を引きとめる。  常連客の笑顔の裏に「お前に律はやらん!!」という無言の圧力を感じた―― ***

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