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ハロウィン 第30話(春海)
「ちょっと!村雨さんにこんなにお酒飲ませたの誰ですかっ!?」
春海が追加の料理を作ったり酔っ払った客の相手をしたりしている間に、村雨は常連客に捕まって酒を飲まされてしまったらしい。
酒は弱い方ではないと言っていたのに、その村雨がテーブルに突っ伏してダウンしている。
仁王立ちの春海に睨まれて、常連客たちが一斉に目を逸らした。
メイド姿で怒っても迫力には欠けるが、春海は普段滅多に怒らない。
その春海が怒っているということは、よほどのことだと言うことが常連客にはよくわかっているのだ。
「重 さん!?勘 ちゃん!?三 ちゃん!!どうなんですか!?」
他の人たちの後ろに隠れようとしていた三人組に声をかける。
ギクリとして三人の背筋が一気に伸びた。
「はいっ!?……いや、え~と……わしらはそんなに飲ませてないんだよ?」
「そうそう、ちょ~~っとな?飲み比べをしてみようかって話になって~」
「この兄ちゃんが、ムキになって飲むからよ……わしらは止めたんだけどな?」
春海の祖父の代からの常連客であるこの三人は、春海にとって客というより親戚のおじさんのような存在だ。
コップに残っていたお酒を嗅ぐ。
春海は酒に弱い。だから大学の飲み会でも基本的にソフトドリンクを頼んでいた。
だが、春海は可愛いのでソフトドリンクに酒をこっそり混ぜられることがあるかもしれないからと、祖父や重さんたちから酒の匂いと味を覚えさせられた。
春海はそんなの必要ないだろうと思ったが、実際それはかなり役にたった。
春海のことをわが子のように大事にしてくれている三人は、最近春海と急に親しくなった村雨のことを警戒していて、あまり良く思っていないようだ。
心配してくれているのはわかるが、これはやりすぎだ。
ビールの飲み比べなのに洋酒を混ぜてあったらしい。
重さんは酒屋さんなので、恐らく持ってきたのは重さんだろうけど……
「今日は日本酒とビールだけって言ってあったのに、洋酒持ってきたのは誰!?ウイスキーとテキーラは絶対入ってるでしょ!?」
「そんなに怒るなよぅ。可愛い顔が台無しだよ?りっちゃん笑って笑ってぇ~?」
「笑えません!!」
「あ~……でも、ちょっとだよ?ほんとに!そんなアルコール中毒とか起こすほど入れてないし、一気飲みもさせてないし……」
「そういう問題じゃないでしょっ!!!まったくもぅ!!罰として村雨さん運ぶの手伝って!!」
「……はぁ~い……」
三人に手伝ってもらって、村雨をベッドに寝かせる。
「はぁ、もぅ!今度ちゃんと村雨さんに謝って下さいよ!?」
「だってよ~……」
「だってじゃありませんっ!……あのね、村雨さんは悪い人じゃないから。みんなと同じようにわたしのこと心配してくれて、いろいろ助けてくれてるし、頼りになる人なの。だから、あんまり村雨さんのこといじめないで?」
「……ほんとに大丈夫か?こんな若くて顔のいいやつは、人を騙すのも得意だからよぅ……」
「うん、大丈夫!」
しょんぼり項垂れて胸元で指をいじいじしている三人組に、春海が笑いかけた。
「心配してくれてるのは嬉しいけど……村雨さんは他人を騙すような人じゃないよ。ほら、わたしが共感力強いの知ってるでしょ?村雨さんはそんな悪い感情を持ってないってわかるの。だから、大丈夫だよ――」
その後もパーティーは続き、夜中の12時にようやくお開きになった。
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