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ハロウィン 第31話(春海)※

 店内の片づけをして2階に戻ると、ちょうど村雨が起き上がっていた。 「大丈夫ですか?水飲めます?」 「あ~……すみません……」  村雨が頭を押さえて顔をしかめながら水を受け取った。 「ちょっとトイレ借ります……」 「あ、気を付けて!」  少しふらつきながらも、普通に歩いていく。  あれ、もうだいぶお酒抜けたのかな?  でもまだ足元危ないし、明日は日曜日だし、このまま…… 「村雨さん、今夜はもう……って、え?」  戻って来た村雨に話しかけようとしたら、村雨が春海に倒れこんできた。 「ちょっ、村雨さん!?待って待って、ベッドまで頑張って!!」 「ん~……」 「寝てもいいから、ベッドで寝てください!わたしじゃ運べないからぁ~!」  体格差があるので、春海一人では村雨を運ぶのは難しい。  肩を貸しながら、なんとか自力でベッドまで歩いてもらう。  どさりとベッドに倒れこんだ村雨に腕を引っ張られて春海も倒れこんだ。 「わっぷ…!……あ、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」  村雨の上に倒れこんだことに気づいて起き上がろうとすると、村雨に抱きしめられてそのままクルリと転がされ気がついたら村雨に押し倒されていた。 「え……と……村雨さん?」 「あ~~もぅ……春海さん可愛いぃ……食べちゃいたぃ……」 「え!?あの……」  村雨が熱っぽい瞳で春海を見つめて呟くと、春海の肩口に顔を埋めてため息を吐いた。 「ひゃっ……っ」  村雨の息があたってこそばゆい。  思わず変な声が出た。 「そんな可愛い恰好みんなの前でしちゃダメでしょ~?襲われたらどうすんの……」  村雨が春海の額に自分の額をグリグリと押し付けてくる。  えっ……か、顔っ近い!!  村雨とは、キスなら何回もしている。  でも、キス以外でのこの距離間にはちょっと狼狽(うろた)えてしまう。  どんな顔をすればいいのかわからず、目を泳がせながら村雨を押しのけようと頑張る。 「いや、襲われませんって!わたし男ですし!!」 「だぁ~って、そんな恰好してたらわかんないよ?女の子と間違われちゃうかもしれないでしょ?」  春海が押しのけようとするのが気に入らないのか、ちょっとむっとした顔で春海に説教をしてくる村雨の目が……()わっていた。  村雨さん、実はまだ結構酔ってる!? 「わ……わかりますよ!胸もないし……ってちょっ!?」 「胸~?ん~……ホントにない?」  村雨の手が胸元にかかったかと思うと、グイッと服を下ろされてしまった。  胸元が大きく開いたタイプの服だったので、簡単に胸が露わになる。 「あっ……ちょっと村雨さん!?なんで脱が……ぁっ……も~~!酔い過ぎですってばっ!」  別に女じゃないので胸を見られたところでどうってことはないけれど、何となく反射的に手で押さえた。  このままだとなんだかヤバい気がする……  村雨が、胸を押さえる春海の手を外しながら春海の首筋をペロリと舐めて甘く噛んだ。 「ぁんっ……っ……っは……!」  今までも、キスから盛り上がって少しそういう流れになりかけたことはあるけれど、春海が緊張しているのを感じて村雨が途中で止めてくれていた。  でも、今は……酔っぱらって理性が飛んでいるらしい。  村雨が本能のままに春海の身体を貪っていく。  待って、もしかしてこのままだと、そういうことになるよね……  え、どうしよう……もういっそこのまま……流れに任せちゃう?  でも、酔った勢いなんて……村雨さんも同性相手は初めてのはずだし……こんな状態で出来るの!?  春海が混乱している間に、耳元や首筋から鎖骨、胸へとどんどん口唇が移動していく。  あ……  村雨が春海の着ている女の子用の服を手慣れた様子で脱がしていくことに……村雨の過去の女性関係がふと頭をよぎって泣きたくなった。  春海だって、女の子と付き合ったことはあるし、セックスだってしたことはある……  だから、お互いさまなのに……もう過去のことなのに……一瞬、村雨に抱かれた顔も知らない女の人たちに嫉妬してしまった……  村雨がうわ言のように「可愛い……好きだ……」と呟く。  耳元をくすぐるその言葉に胸が切なくなる。  ねぇ……それって誰に向かって言ってるの?  いま、あなたの腕の中にいるのが誰かわかってますか?  あなたが求めてるのは……誰?  春海の肌に熱っぽい息がかかる度に、なんとも言えない感覚に襲われて身体が小さく震えた。 「や……だ……待って……っんん」  村雨の強引で荒々しい愛撫に、春海も身体の奥が熱くなってくるのを感じていた。  気持ち良い……もっとキスして欲しい……けど…… 「いやっっ!!!」  村雨の手が股間に触れた瞬間、思わず村雨を思いきり突き飛ばしていた。 「(いて)っ……え?……あ、俺……」  軽く壁に頭を打ち付けた村雨が、泣いている春海を見て我に返った。 「春海さん……あの……俺……すみませんっ!!!」 「だ……大丈夫です……」 「いや、大丈夫じゃないですよね、それ……あの……~~~っ俺ですよね……あ~…………」  村雨が頭をガシガシとかき乱して、両手で顔を覆った。  大きく息を吸って、ゆっくり吐き出す。 「あ゛~~~っ!……すみません、今日は帰ります……今はまだ酒が残ってるんで……またちゃんと酔ってない時に改めて謝らせてください……本当にすみません……」 「え、村雨さんっ!?ちょっと待って――」  村雨が、自分の荷物をかき集めて春海の制止する声も聞かずに飛び出して行った。  もう終電はないから、帰るとしたらどこかでタクシーを拾うしかない。  今すぐ追いかければ、村雨に追い付けるはずだ。  だけど、身体に力が入らなかった……  違う……村雨さんに抱かれるのが嫌っていうわけじゃないのに……  でもさっきのは完全に村雨さん誤解したはず。  どうしよう……村雨さんを傷付けちゃった。  わたし……どうしよう……  春海は、村雨の出て行った扉を眺めながら、村雨とのセックスに踏み切れない自分の意気地なさと、上手く気持ちが伝えられない不器用さにどうしたらいいのかわからず途方に暮れていた――   ***

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