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見えない壁 第34話(春海)

 ハロウィンパーティーの翌日、村雨は本当に謝りに来てくれた。    村雨には、気にしなくていいと言った。  だって、あの時の村雨は酒に酔っていたし……酔わせたのは常連さんたち。  常連さんたちがそんなことをした理由は、春海のためだった。  だから、結局は春海のせいであって、村雨には何も非がない。  村雨は、春海の言い分に納得しかねる感じだったが、 「お互いさまってことでもうこの話は終わりにしませんか?」  と言う春海に、渋々合わせてくれた。  それからは、また今まで通り仕事が終わると店に来て、晩御飯を一緒に食べて過ごしている。  村雨さんは相変わらず優しい。  ただ一つ、大きく変わったのは……  村雨さんが一切春海に触れてこなくなったこと。  キスもハグもあれからは一度もしてこない。  今まで二人きりの時は隙あらば触れてきていたくせに、テレビを観る時も隣に座るだけで身体には触れてこない。  少し指が触れたり、肩が触れたりすることはあったが、やんわりと離れてしまう。  振り払われることはないけれど、避けられていることには変わりない……  嫌われた……?  やっぱり、男じゃだめ?  面倒になった?  わたしが女だったら、もっと簡単だったのかな……  あれこれ考えずに抱かれることが出来てた?  村雨の態度に不安が募っていろいろと考えてしまったけれど、村雨から感じるのは後悔と罪悪感のようなもので、春海のことが嫌いになったわけではなさそうだった。  あの時のことを気にして、わたしに触れないようにしてるのかも……  春海は以前のように触れて欲しいと思っている。  でも、その先を拒否したくせに、触れて欲しいというのは、虫がよすぎる。  今まで村雨さんはどんな気持ちで触れてくれていたんだろう。  ずっと生殺し状態だったんだから、かなりキツかったはずだ。  このままじゃ……本当に別れを切り出されてしまうかもしれない……    それは……イヤだ……!!  お互い相手を大切に思っているのは感じているのに、心がすれ違う。  春海は、どうにかしたいと思いつつも、なかなか打開策を見つけられずにいた―― ***      

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