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反省会 第33話(村雨)

 ハロウィンパーティーの翌日、春海に謝りに行った。  春海は、あれはお酒のせいだし、潰れるほど飲ませた常連客のせいだし、常連客がそんなことをした理由は春海のことを心配して村雨を警戒していたからなので、つまりは春海のせいだから気にしなくていいと言った。    そこはかとない、既視感(デジャヴ)。  全部自分一人で背負おうとするのは春海の悪いクセだ。  それをさせている俺が言えた義理ではないけれど……  春海は、村雨は酔っていたのであの時のことをほとんど覚えていないと思っているらしい。  たしかに、はっきりとは覚えていないけど、薄っすらとは覚えている。  でも、それがどこまで現実かと問われれば、よくわからない……  ただひとつはっきりしているのは……俺が春海さんを傷付けたということ。  酔ってちょっとふざけていただけだから大丈夫だと言う春海の笑顔が硬い。  無理をさせてしまっているのは、明白だ。  俺が何をしたのか、春海さんに深く突っ込んで聞いたところで、何も解決しない。  それよりは、これからどうすればいいかを考えていくべきだ―― *** 「はぁ……」 「な~にため息なんか吐いてんだ?お前らしくねぇな」  会社のロッカールームで思わずため息を吐いているところを、先輩にツッコまれた。 「いや……先輩、今日飲み行けます?ちょっと反省会に付き合って下さい」 「お?いいよ~。お前から誘ってくるのは久しぶりじゃね?」 「まぁ……ちょっと……あ、俺ノンアルですけど」 「だからノンアル飲むなら―――― 「はぁ~ん……?つまり~……欲求不満だったところに珍しく悪酔いして、事もあろうに一番大切にしてきた人を本能のまま襲っちまって絶賛後悔中なわけだ?なに、おまえサイテーだな?」  ビールを飲みながら先輩が話をサクッとまとめた。 「俺が最低なのはわかってますよ!!もう嫌という程に!!」  ヤケ酒の代わりにウーロン茶を一気飲みした村雨は机に突っ伏した。  先輩は、ノンアルには文句を言うくせに、ウーロン茶はいいらしい。 「はははっ、んで?何を悩んでるわけ?」 「え!?だから、その……これからどうすればいいのか……」 「ふ~ん……おまえはどうしたいの?」 「俺は……」  どうもこうもない……  俺は春海さんと別れたくない。  このまま付き合いたい……  だけど、あんなことをしちゃったから……春海さんにもう一度好きになってもらうにはどうすればいいのか……   「向こうはもう答え出してんだろ?」 「へ?」  先輩があまりに簡単なことのように言うので、間抜けな声が出た。 「おまえに襲われても、許してくれたんだろ?酒に酔って襲ってくるようなバカを許してくれるってことは、それだけおまえのことが好きだってことだろ。まぁ……おまえと寝るのも、ちゃんと段階踏めばもう受け入れてくれるだけの気持ちはあったってことなんじゃないの?」 「え!?そうなんですか!?」 「あくまで、過去形だけどな?」  最初の頃に、キスからそういう雰囲気に持って行こうとしたら春海の身体が強張ってしまったので、それ以来無理強いをしないようにしてきた。  春海の様子を窺っているうちに、なんとなくタイミングを見失って……心の準備が出来たら春海から言ってくれるだろうと……自分からはその話題を出すこともしていなかった。  でも、そうか……あれからだいぶ経つし、俺がもっと春海さんに寄り添って、春海さんに合わせて段階を踏んでいっていれば……もしかしたらもう受け入れてくれてたかもしれないってこと!?  それなのに、俺が全部自分でぶち壊して…… 「マジかぁ~~~……あぁ~~~~俺のバカぁあああ!!!」 「だな。それにしても、おまえがそんなに苦戦してるなんて意外だな。今度の彼女は本気ってことか?」 「本気ですよ。本気だから悩んでるんですよぉおおおおお!!」  先輩とは、しょっちゅう飲みに行っているので、お互いの過去の恋愛話もしたことがある。  別に、今までの恋愛が遊びだったわけではない。自分なりに本気だと思っていた。  でも、春海との恋愛と比べると……やはり今までのは遊びだったのかもしれない。  今までなら、簡単に別れられた。別れを切り出されても、何も感じなかった。  だけど、今は春海に別れを切り出されたらと考えただけで、夜も眠れない。    別れると言われても仕方のないことをしたと思っている。  それでも、春海さんと別れるのは絶対にイヤだ。 「自分の気持ちもわかってねぇのに相手の気持ちなんてわかるわけないだろ?ま、せいぜい悩め。一生懸命相手のことを考えて、想って、悩んで、変わろうとする……それが恋だろ?」 「……その顔で恋とか言わないでください……似合わねぇっすよ……」  先輩の言葉に、ちょっとぐっと来た。  それを誤魔化すために思わず余計な言葉が飛び出していた。  良い事言うんだよ先輩は、顔は怖いし独身だけど。   「お?そうか、おまえそんなに俺に奢りたいってか?悪いねぇ、じゃあもうちょっと高いやつ頼むわ、すみませーん!」  先輩が怒るかわりににっこり笑うと手を挙げて店員を呼んだ。 「え!?わーわーごめんなさい!先輩男前!!カッコいい!!頼りになるぅ~!!って、ちょっと、そんな高いやつはダメですよ!?俺金ないですから!!」 「知るかそんなの!!――」  自分の気持ちもわからないのに、相手の気持ちなんてわかるわけがない……か。  そりゃそうだ。  他人の頭の中なんて、いくら考えてもわかるわけがない。  それでも、わかりたいと思う。知りたいと思う。    春海さんには甘えてばかりで、傷付けてばかりだけど……  こんな情けない俺でも、本気で春海さんを守りたいと、頼られたいと思っている。  春海さんには鼻で笑われそうだけど―― ***

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