38 / 61
ナイトメア 第37話(村雨)
眠れたみたいだな……
村雨は腕の中で眠る春海を見て、ふぅっと安堵の息を吐いた。
空き巣が多発していると聞いて、半ば無理やり泊まり込ませてもらうようになって4日。
春海はハロウィンの後も以前のように接してくれている。
でも、時々笑顔が強張っている。
やはり、まだ俺に怯えているのかもしれない……
これ以上怖がらせたくなくて、あれ以来俺からは一度も春海さんに触れていない。
そんなギクシャクした中で泊まり込むのはどうかと思ったが、それよりも春海さんのことが心配だった。
夜は、ちゃんと離れて寝ている。
春海は気を遣ってベッドで寝るように言ってくれたが、こんな状態で一緒にベッドに入ったら、春海は村雨に怯えて眠るどころじゃないだろう。
そう思って、村雨はソファーで眠るようにしていた……
***
春海がうなされていることに気づいたのは、たまたまトイレに起きたからだ。
寝室の前を通ったら春海の泣き声が聞こえた。
泣き声に混じって時々口にしていた言葉から、お爺さんの夢を見ていたのだと思う。
大好きな故人に会えるのは嬉しいばかりではない。
悲しみを乗り越えようと一生懸命生きている程、それが夢だとわかるから余計に辛い。
大好きなのに、どうして一緒に連れていってくれなかったのかと責めてしまう。
話しかけても、答えてくれるとは限らない。
そこにいるのは自分の想い出の中の人で、欲しい答えなどくれるはずもない……
それでも……
目が覚めると消えてしまうから、このままずっと眠っていたい、ずっと一緒にいたいと願う――
村雨も何度も経験したことだからわかる。
起こさない方が、春海さんにとっては良かったのかもしれない。
せっかくお爺さんに会えたのに、目を覚ますと夢の内容は朧 げになってしまうから……
しかし、そこまでわかっていても、涙を流して置いて行かないでと叫ぶ春海を、そのままにしておけなかった。
起こした後も、たぶん春海はまだ半分夢の中にいたのだと思う。
そうじゃなければ、村雨にあんな風に甘えてこなかったはずだ。
寝惚けていてくれて良かった……
普段はあまり見せない春海の弱さを垣間見た気がした。
本当は寂しがりやで甘えんぼうなのに、それを笑顔で隠してひとりで頑張っている。
そんな春海が愛おしくて、つい抱きしめていた。
村雨を支えてくれているように、春海の支えになりたいと思う。
素面 でも、春海さんが甘えてこられるくらいの男になろう……
数週間ぶりの春海の温もりを感じて幸せを噛みしめながら、心に誓った。
***
あ~……離したくない……
でもな~……寝惚けてるから触れるのを許してくれたわけで、目が覚めて俺がここにいたら……ダメですよね~……
大きくため息をついた村雨は、春海をそっとベッドに寝かせて断腸の思いで離れようとしたのだが、ふと見ると村雨の服を春海が強く握りしめていて外せなくなっていた。
…………え~と…………これは不可抗力ですね。
仕方ない、うん、これは仕方ない!
無理やり外そうとしたら、春海さん起きちゃうかもだしね!
しばらくしたら力抜けて外れるかもしれないし……
それまでもう少しだけ……
村雨は誰に言うともなく言い訳をすると、春海を抱きしめたまま横になった――
***
ともだちにシェアしよう!