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どっち? 第38話(春海)

「村雨さん……話を……聞いてもらってもいいですか?」  村雨が泊まってくれるようになって6日目の夜。  春海は、テレビを観ていた村雨に話しかけた。 「え?……はい、どうしたんですか?」  村雨が春海の様子から真剣な話だと思ったのかテレビを消して春海に向き合った。 「あ、テレビ観ながらでも全然……いいんですけど……」  というか……テレビはつけたままの方が……気が楽だったかな~なんて……静かだと緊張しちゃう……! 「ん?いや、話をするのにテレビついてたら邪魔じゃないですか?」  ごもっともです…… 「そそそそうですよね!!あの……あのね……セックスについてなんですけど……」 「あぁ……はぃ」  村雨が、若干緊張した顔で春海を見た。  春海は、自分が性欲があまり強くないこと、男同士のセックスが未知すぎて怖いことなど、今まで言えなかったことを、話した。 「でも……村雨さんに触れられるのはイヤじゃないんです……むしろ、もっと触って欲しい」  ハロウィン事件以来、村雨が触れてくれなくなって悲しかった。  先日、夜中にうなされていた春海を村雨が抱きしめてくれて……嬉しかったしすごく安心した。 「え!?あ~……でも、俺のこと怖いんじゃ……」 「怖くないです!!」 「だけど、俺この間春海さんのこと襲っちゃったし……」 「あの時は……」  お互い男は初めてなのに、酒の勢いでするのが不安だった。  村雨の手際が良すぎて、過去の女と重ねられているのではと思うと切なくなった。  途中で村雨に拒否られたらと思うと怖くて、思わず突き飛ばしてしまっていた。   「え……と……?じゃあ……あの時泣いてたのは……俺に襲われて怯えてたんじゃなくて……?」 「村雨さんが……わたしのことを認識してないんじゃないかと思って……だって、わたし男ですよ!?いくら顔が女顔でも、女物の服を着ていても、身体の作りは違うし……女と思って襲ってたんなら、裸を見たら……萎えるかもしれないでしょ?そうなったらわたしも……ちょっと傷つくっていうか……」 「あ~……うん……ちょっと待ってくださいね……え~と……」  村雨が手を前に出して春海の言葉を遮る。  こめかみを押さえながら、え~と……と考え込んでいた村雨が、チラッと春海を見た。 「つまり、春海さんは、酔っ払ってる俺には男の春海さんを抱けないんじゃないかと思っていやだったの?」 「えと……そんな感じ?……です」  本当のところは、自分でもよくわからない。  あの時はいろんな感情が渦巻いて、頭の中がいっぱいになっていたので、全部を説明するのは難しい……  とりあえず、説明できるところだけを頑張って言葉にしてみたつもりだが、言いながら自分でも何が言いたいのかわからなくなってきた。  我ながら説明が下手すぎる……   「ん~……まぁ、酔っ払ってたから俺もうろ覚えだけど……俺はちゃんと春海さんだってわかってましたよ?春海さんだから襲ったわけだし。いや、襲うのはダメだけど……」 「え?」 「え~とね……」  村雨が首の後ろを掻きながら、言葉を探すように少し上を見た。 「あのね、俺は春海さんのことが本当に好きなんです。今抱きたいと思うのは春海さんだけだから、いくら酔ってても他の女と間違うことは絶対ないです。だいたい、学生時代でもいくら酔っても誰かを襲うなんてしたことないですから。俺が襲いたいのは春海さんだけですよ」  わたしだってちゃんとわかってたの?あんなに酔ってたのに?  春海が驚いていると、村雨がふっと微笑んだ。 「でも、春海さんが止めてくれて良かったです。せっかくの春海さんとの初めてを、台無しにするところだった。酔った勢いで襲ってたら優しく出来なかったと思うし……」 「……え……あ……はい」  優しく?って、何を?え?  自分から持ち出した話題なのに、急に生々しく感じて顔が熱くなった。 「俺も今まで何となく先延ばしにしちゃってたんですけど、ちょうどいい機会だからちゃんとその話しますか?」 「え!?そそそその話って!?」 「だから、セックス。俺も春海さんも男は初めてなわけだし、一応男同士のやり方とかは調べてますけど……とりあえず、春海さんどっちがいいですか?」  村雨が、真顔で春海に問いかけてくる。  どっち!?どっちって何が!?え?待ってっ!! 「あの……どっちって……」 「え~と、春海さん男同士のって調べたりしてませんか?あの、男同士だと……」 「ししし調べてますっ!!わたしも一応調べました!!」 「あ、やっぱり?春海さん真面目だから、たぶん調べてるとは思ったんですけど」  村雨が苦笑する。  春海の慌てる様子を楽しんでいるらしい。  でも、春海はそれどころではない!  童貞ではないにしても、学生時代でもそんなに友人と性に関してあけすけに話をしたことはないし、何より春海自身、もうだいぶ恋愛からもセックスからも遠ざかっていたので、羞恥心の方が勝ってしまう。    どうしよう、初めて女の子を抱いた時より緊張してるかもしれない……っ!! 「あの……それで……どっちがいいっていうのは……」 「ん~、入れられる方の負担が大きいみたいだし、春海さんが怖いなら俺がそっち側になりますよ?」 「ええ!?」 「俺ももちろんそっち側は初めてですけど、春海さんと出来るならどっちでもいいかなって」  村雨の方が経験豊富だろうし、勝手に春海が入れられる側だと思っていた。  春海が入れる側になるなんて考えもしていなかったので、頭の中が大パニックだった。  え、わたしが入れる?村雨さんに? 「まぁ、その場合、春海さんが俺を抱けるかって話になるんですけど……春海さん俺で()ちます?」 「勃っ……!?」 「春海さん?ちょっ、大丈夫ですか?お~い!返ってきて~!!……」  春海の頭がオーバーヒートして、そこで意識が飛んでしまった―― ***  

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