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徐々に……ね 第39話(春海)

――気がつくと、春海はソファーに横になっていた。 「あ、気がつきましたか?気分は?」  春海の額に冷タオルを置いていた村雨が、心配そうにのぞき込んできた。 「……あの、わたし……?」 「話の途中で倒れちゃったんですよ。……すみません、俺のせいで……」  そうだっ!確かわたしが村雨さんを……抱けるかって話……を……    春海は慌てて起き上がると、ソファーの上で正座をして項垂れた。 「謝るのはわたしの方ですっ!!ごめんなさい、わたしからそういう話題をふったのに……」  あ~……わたし一体何やってんの~~……!? 「いや、俺が悪いんですよ。ちゃんと春海さんの心の準備が出来るまで待とうって思ってたのに、またちょっと調子に乗って……性急過ぎました。すみません」  村雨が春海に頭を下げた。 「違っ……村雨さんのせいじゃないですってば!わたしがっ!…………わたし、いい歳して情けないですね……」 「ん~……こういうのに年は関係ないかと。それに、こういう話が苦手ですぐに照れる純粋(ピュア)なところも可愛くて好きですよ」 「へ?……あ、ありがとうございます……」 「はい」  村雨はさらっと好きという言葉を言って来る。  しかも、ただ「好き」と言うだけじゃなくて、「こういうところが好き」と言ってくれることが多い。  ちゃんとわたしを見てくれているのだと感じられて、嬉しくなる。  村雨さんって……絶対たらしだと思う…… 「えっと……あのそれで、さっきの話ですけど……」 「ん?あぁ、あの話はまた今度でいいですよ」 「わ、わたし、そこは一応男なので!好きな人にだったら、村雨さんにだったら、勃っ……勃つとは思いますけど、村雨さんを抱けるような技術(テクニック)がないので……だから、抱いて下さいっ!!」 「……え……?」  春海が羞恥心をかなぐり捨てて思い切って自分の気持ちを言葉にした。  それを聞いた村雨がハトが豆鉄砲を食ったような顔をした。  あれ、わたし今なんて言った?変なこと言ったっけ?何か間違った? 「ああああの……えっとだから……わたしが入れられる側でっていう……」 「あぁ、いや、それはわかりますけど……」 「で……ですよね!」  村雨の反応が薄いので、何か間違ったのかと不安になってまた顔が熱くなってきた。  え、村雨さんが言ってたのって、そういう意味じゃなかったのかな?わたし早まった!?  村雨がスッと手を伸ばしてきて春海の頬を撫でた。 「っ……!?」  村雨に触れられるのは嬉しいのに、もうなんだかいっぱいいっぱいだったので、びっくりして思わず目をギュッと閉じてしまった。  春海の反応に村雨の手が止まる。  あ、村雨さん誤解しちゃったかな!?違うの、今のはイヤってわけじゃなくて…… 「あの……」  春海が焦って村雨に説明しようと口を開きかけると、村雨がふふっと苦笑した。 「無理しなくていいですよ。大丈夫、春海さんがいいって言うまでしませんから」 「……ぇ?」  村雨が苦笑しながら、両手で春海の頬を挟んだ。 「でも、そうだなぁ……このままじゃ埒が明かないから……徐々に慣らしましょうか。徐々に……ね」  慣らす?なにを? 「とりあえず、キスしてもいいですか?」 「え……あ、はい……」  キス!?なんだ、キスか……  ちょっと拍子抜けしてしまった。  でも、改めて聞かれると、なんだか照れてしまう……  ちょっと俯いていた春海の顎を持ち上げると、村雨が口唇を重ねてきた。    キスするのも久しぶりだ……  最初は軽めだったが、春海の力が抜けてくるとだんだん長く激しくなっていった。 「春海さん、もっと舌出して?」 「ふぇ?……んっ!?」  言われるまま出した舌は村雨に絡め取られて、口腔内が村雨でいっぱいになった。  なにこれ、今までのキスと違うっ!?  キスをしているだけなのに、背筋がゾクゾクしてくる。  村雨の舌の動きが、口だけじゃなくて全身を愛撫されているようで気持ちいい……けど、 「んんっ……ん~~っ!」  息が出来なくて苦しくなったので村雨の胸を拳で軽く叩くと、村雨が口唇を離した。 「春海さん、鼻で息するんですよ?ディープキスとかしたことない?」 「し……知ってるけど……そんな激しいのは……けほっ……したことない……です」 「あ~……なにそれ可愛っ……じゃなくて、すみません。えっと……じゃあ、それも徐々にってことで」 「けほっ……すみま……せん……っ」  そういうキスに慣れてなかったというのもあるけれど、村雨とのキスはなんだか胸がドキドキして、何も考えられなくなってしまう……それこそ、呼吸も忘れるくらいに……  咳き込む春海の背中を、村雨が笑いを堪えながら撫でてくれた。  あ~もう、恥ずかしいぃ~~~!!!  キスでこれだったら、セックスになったら……わたしどうなっちゃうんだろう……  前途多難だ……  落ち込む春海を、村雨はやけに嬉しそうな顔で眺めていた―― ***

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