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聞いてねぇよっ!? 第40話(村雨)
「よっ!なんだ、ご機嫌だな」
退社前にトイレに寄っていると、後ろから先輩に頭を軽く叩かれた。
「痛っ!あ、先輩、お疲れ様です」
「良い事でもあったのか?」
「いや~……おかげさまで何とか仲直りが出来まして……」
「あぁ、なんだ。仲直りできたのか、良かったな」
「はい!また、キスとハグはさせてくれるようになりました……っていうか……究極に照れ屋な恋人を怯えさせないように抱くのってどうしたらいいんですかね……とにかくめちゃくちゃ純粋で照れ屋なんですよね~……童貞ではないみたいなんですけど」
「ふぅ~ん……って、ん?いや、おまえそこは童貞じゃなくて処女だろ?」
手を洗っていた先輩が、顔をあげて鏡越しに村雨を見てきた。
「え?いや、童貞であってますよ?」
「え……ちょ……なぁ、おまえの恋人って……もしかして男?」
「そうですよ?あれ、俺言ってませんでしたっけ?」
「ぅえええぇ!?聞いてねぇよっ!?俺はずっと女だと思って……いや、何となくおかしいなとは思ってたけど……マジかよ!?おまえってそういう……?」
「先輩、水出しっぱなしですよ。……俺の過去の女関係は先輩も知ってるでしょ?男は今の恋人だけですよ」
先輩が水を出しっぱなしにしていたので、村雨が代わりに水を止めた。
「男ですけど、めちゃくちゃ可愛いんですよ。見た目も性格も。だから襲いかかっちゃったわけですけど……でも男同士のやり方ってよくわかんなくて……俺が慣れてたらもっとスムーズにベッドに誘えたのかなぁ……女の誘い方ならわかるんですけど……」
「……ぉ?おぅ……そ……そうだな?まぁでも……俺もそういうのはよくわからんが、恋愛に性別は関係ないだろうし……あ~……うん、おまえが本気なのは知ってるから……とにかく焦らずにな?ハロウィンの二の舞にならないように……頑張れ?」
「はい!頑張ります!じゃあ、お疲れ様ですっ!」
「お~……」
驚きながらも村雨を激励してくれる先輩に最高の笑顔で答えると、急ぎ足で会社を出た。
別に、春海さんとのことを周囲に隠す気はない。
隠す気はないが、じゃあ、おまえはゲイかと聞かれたら、自分でもわからない。
春海以外の男には興味はない。
春海だから好きになった。
好きになった人がたまたま男だった。
それだけのことだ。
先輩も言っていたけれど、恋愛に性別は関係ないと思う。
運命の人が異性とは限らない。
自然の摂理には逆らっているのかもしれないけれど、愛のカタチは人それぞれでいいと思う。
とはいえ、それを受け入れられる人ばかりじゃないことはよく知っているので、わざわざ自分から言うようなことはしない。
先輩は、聞いてもきっと態度を変えたりなんかしない。
他人のプライバシーを言いふらすような野暮なことはしない。
そういう人だから話した。
でもあの感じだと、たぶん10分くらいはあのまま固まってるかな。
驚かせてすみません……!
心の中で先輩に頭を下げた――
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