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夢だから…… 第42話(村雨)

 春海さんの家に泊まるようになって、春海さんが結構な頻度で夜中うなされていることを知った。  そのことに気づいてから、夜中に様子を見に行くのが日課になっている。  春海さんは、起こした後、少しあやすとまた眠りにつく。  俺は春海さんがちゃんと眠ったのを確認したら、そっとベッドから抜け出している。  たまに春海さんが離してくれなくて朝方までベッドで仮眠していることもあるが、春海さんが目覚める前にはソファーに戻って眠るようにしている。  今日もいつもと同じ夜のはずだった―― 「春海さん……(りつ)さん!」  村雨はうなされている春海を起こす時だけ「律さん」と呼ぶ。  春海が「律さん」と呼んだ方が目を覚ましやすいからだが、普段は下の名前で呼べないので村雨の密かな楽しみでもある。 「ふぇ……?」 「大丈夫?」 「ん~……あれ?祖父ちゃんは?」  春海が目を擦りながらキョロキョロとあたりを見回した。 「春海さん、夢だよ」 「ゆめ?」  あ~今日はかなり寝惚けてるな。  虚ろな瞳には、村雨が映っていない様子だった。 「夢を見てたんだよ。ちょっとうなされてたけど、大丈夫?」 「夢……あぁ……夢か……」 「どんな夢だったの?」 「ん……祖父ちゃんが……コーヒー豆を川に流して……ぼくが豆に追いかけられて……」 「んん?……そか、大変だったね」  夢の内容は覚えていないことが多く、たまに覚えていても支離滅裂だ。  うなされるような夢なんだから、それでいいと思う。  だからいつも内容は適当に聞き流しているのだが……  あれ?今……春海さん、ぼくって言った?  そういえば、いくら春海さんでも、最初から自分のことを「わたし」って言ってたわけじゃないだろうし……いつから「わたし」になったんだろう……なんか新鮮だな……  そんなことを考えながら春海をあやしていると、春海が胸元に顔をグリグリと擦り付けてきた。 「ぅ~……」 「ん?どしたの?」 「抱きしめて?」  んん゛!?  村雨の胸元に抱きついていた春海が、顔を埋めたまま甘えてきた。 「いいよ」  いいですとも!!はい、喜んで!!  心の中で居酒屋の店員並みの勢いで返事をすると、春海の背中に回していた腕に力を込めて、いつもより強めに抱きしめた。  村雨の胸元で、春海が小さく息を吐いた。 「苦しくない?」 「ん……気持ちい」 「……そ……っか」  助けてっ!!春海さんが俺を殺しに来てる!!    普段見せない春海さんの甘えた姿が見られるのがこの時間の良いところだけれど……  なに?今日やけに甘えて来るじゃないですか!!  そんなに可愛いとこ見せておいて手を出せないとか、生殺しにも程がある!!!  もうお願いだから早く寝ちゃって!! 「ちゃんとギュッてして!」  ちょっと腕を緩めたのがバレたらしい。 「はい、すみません!」  もう一度さっきと同じくらいの強さで抱きしめた。 「もっと……」 「え!?いや、これ以上したら苦しいでしょ」 「やだ、もっと!」  もっとと言われても……これ以上力を入れたら春海さんが壊れそうで怖い…… 「これくらいで我慢して?そのかわり寝るまでちゃんとぎゅってしてるから」 「やだぁ……」 「もぉ~~!!あんまりワガママ言ってると襲っちゃいますよ!?」  春海がワガママを言うことなど滅多にない。  だから、春海のワガママなら何でもいう事を聞いてやりたい。  が、これはダメです!!肋骨折れたらどうするの!?  いやもうホントに……勘弁し―― 「だって……村雨さんもいなくなっちゃう」 「……はい?」  え?春海さん俺のことわかってたの?いつから? 「起きたらいないんだもん……ギュッてしてくれるの今だけだもん」  あ、これもしかしてまだ夢の中だと思ってる? 「起きてもいるから大丈夫だよ。春海さんがして欲しい時はいつでもギュッてするから、ね?」 「ほんと?」 「約束する」  むしろ俺は春海さんがいいって言うなら家にいる間ずっと抱きしめていたいですけど!?  さすがに、それをしたら俺の理性が飛びそうだからしないけどっ!   「嬉しぃ……」  春海が無防備な顔で微笑んだ。  蕩けるような甘い甘いハニースマイル……    あ……  その顔を見た瞬間、思わずそのまま押し倒してキスをしていた―― ***

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