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心の声 第47話(春海)
「……え?今なんて……?」
晩御飯を食べながらサラッと放たれた村雨の言葉に、春海は思わず箸を落とした。
「あ、お箸大丈夫ですか?洗いますよ」
「え……あ、ありがとうございます」
「え~と、だから、俺明日家に帰りますね。長らくお世話になりましたが、とりあえず犯人は捕まったので俺がここに泊まり込む必要はなくなりましたし……」
春海のお箸を洗いながら、村雨がもう一度言う。
そうだ……村雨さんは春海をひとりにしておくのが心配だからと泊まり込んでくれていただけで……つまり、犯人が捕まってしまえばもうここに泊まる必要は……ない。
必要はないけど……
「……でもっ!……え……っと……」
いつまでもここにいてくれるような気になっていた……
同棲しているわけじゃないんだから、いつかは帰ってしまうのはわかっていたことなのに……
「それに、もう年末だからちょっと……会社関係の付き合いで忙しくなるんですよ」
「あぁ……忘年会のシーズンですものね」
「はい、会社の忘年会だけじゃなくて、得意先の人達からも忘年会に呼ばれてて、あ~……得意先の受け付けとかをしてる女の子たちのプライベートな飲み会なんですけど、まぁ、いろいろとお世話になってるんで断れなくて……あ、でも普段は断ってるんですよ!?それに俺今めちゃくちゃ大切にしてる恋人がいるってみんなにはちゃんと言ってあるんで!!心配しないでくださいね?」
村雨が、慌てて春海に言い訳をする。
女の子……?プライベートな飲み会?それって行く必要ある?
ちょっとムっとなったが、それを隠さずに全部話してくれる正直さにちょっと笑ってしまう。
っていうか、めちゃくちゃ大切にしてる恋人がいるって言ってあるとか……そんなこと言われたら怒れないじゃないですか……ズルい……
「そうですか、それは……大変そうですね」
「あの、全部ちょっと顔出したらすぐに帰るつもりなんですけどね。ただ、年末はそんなのばかりになるので……酒は飲まないつもりですけど、断り切れない場合もあるかもだし、酔っ払った状態で春海さんに会って、また我を忘れてやらかしたらいけないので……」
村雨が、少し目線を下げて自嘲気味に笑った。
「そんな……別に……」
別にいいのに……と言いかけて、言葉が喉に詰まった。
村雨がこんなに気にする原因を作ったのは春海だ。
村雨が家に帰ったからと言っても別れるわけじゃない。
泊まり込む前の状態に戻るだけだ。
それなのに、なんでこんなに淋しいと感じるんだろう――
「あ、でも毎日飲み会ってわけじゃないですし、何もない時は前みたいに夕方寄らせてもらうんで。それに、また今回みたいにひとりでいるのが不安になるようなことがあったら、いつでも言って下さいね!」
「……はい、ありがとうございます」
じゃあ、ずっとここにいてください……
心の声は口に出すことは出来なかった――
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