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伝えたい想い 第48話(春海)
12月……師走……
12月に入ってからの村雨は、飲み会だけではなく、勉強も忙しいらしい。
以前は仕事が終わると店に来て閉店までコーヒーを飲みながら勉強をしていたのだが、しばらく勉強に集中したいと連絡が来て、もう何日も顔を見ていない。
しかも出張も立て続けに入っているらしい。
春海にとっては、12月と言ってもそんなに普段と変わりはない。
少しクリスマス仕様のメニューにしたり、常連さんたちとクリスマスパーティーをしたりするくらいだ。
でも、世間では12月は一年のうちで何かと忙しい時期。
春海は、初めてそのことを痛感した。
「マスター、元気ないね」
「え?そうですか?」
「そういえば最近、彼を見かけないね」
「あ……えと……年末なので忙しいみたいです……」
「あぁ、年末はみんな何かと忙しいよね。なるほど、それで元気がないわけだ」
常連客の『先生』が、コーヒーを飲みながら独 り言 ちた。
「連絡はあるのかい?」
「あ、はい。毎日空き時間を見つけては、こまめに……」
そう、連絡はよくしてくれる。
だけど……
顔が……見たいな。
泊まり込んでくれていた時は、どんなに遅くなってもここに帰って来てくれていたので、毎日必ず村雨さんの顔を見ることができた。
毎日連絡をくれているのに、物足りないだなんて……ワガママすぎる。
だいたい、付き合う前は1か月くらい会えないことだって会ったし、あの頃はもちろん連絡先だって知らなかったから、ただ待つだけしか出来なかったし……付き合ってもないんだから当たり前だけど……
それでも、やっぱり毎日考えてしまう。
次に会えるのはいつなんだろう……
「会いたいって言ってみたかい?」
「へ!?ななな何を!?え、わたし何か言いましたか!?」
「いや?ただ、会いたいって顔に書いてあるからね」
「やだなぁ先生!そんなこと……言えませんよ……」
言えるわけがない……
っていうか、わたし、そんなにわかりやすい顔をしてたっ!?
思わず自分の頬を手で隠した。
「どうして?会いたいならそう言えばいいじゃないか」
「だって……仕事で忙しいのがわかってるのにそんなこと言っても……困らせちゃうだけじゃないですか」
これが、女子高生なら……学生同士なら……
「会いたい!今すぐ会いに来て!」と可愛く言えば、彼氏はすべてを放り出してでも会いに来てくれるかもしれない。
でも、お互い社会人で、春海の方が年上で、しかも男同士だ。
三十路前の男に「顔が見たいから今すぐ会いに来て!」とか言われても……ウザいだけでしょ?
「マスター、恋人に会いたいと言うのは、ワガママじゃないよ。至極当然のことなんだ。マスターたちは難しく考えすぎだよ」
「え……」
「ちゃんと気持ちを言葉にして伝えてごらん?」
「そう……ですね――」
先生があまりにも簡単なことのように言うので、春海もだんだんそんな気がしてきた。
会えなくても……会えないのはわかってるけど……でも、本当はいつも会いたいと思ってるって伝えてみようかな――
***
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