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同じ気持ち 第49話(春海)

 翌日。  朝から春海はソワソワしていた。  村雨さんに……「会いたい」って言う……  昨日先生に言われてから、ずっとそのことばかり考えていた。  だが、メールで言うか、電話で言うかを悩んでいる間に、気がついたら夕方になっていた。  その間、いつものように村雨からの連絡はあった。  なのに、当たり障りのない返事だけしか返していなかった。  あれ?わたし一体何してるの?  言うんじゃなかったの!?  たった4文字なのに……何でこんなに悩んでるんだろう…… 「はぁ……」  自分が情けなくてため息を吐いた時、ドアベルが鳴った。  しゃがみ込んでいた春海は、その音を聞いて慌てて立ち上がった。 「いらっしゃいま――……むっ!……(村雨さんっ!)」  思わず大きな声を出しそうになって口を押さえ、小さい声で言い直した。 「ぅおっ!?びっくりした。そんなところで何やってたんですか?」 「え!?あ、いやあの……ちょっとペンを落としちゃって?アハハ……」  まさか、村雨さんに「会いたい」と言う方法を考えていただなんて言えない…… 「あぁ、なるほど。え~と、いつもの、お願いします」 「あ、はい!」  村雨はいつもの席に座ると、勉強を始めた。    店にいる時は、ただの客として振る舞う。  それは春海の為だと言うことはわかっている。  だけど……久々に会ったのに素っ気なさ過ぎじゃないですかっ!?  それとも、たった数日でこんなに顔が見たくてたまらないって、会いたくて仕方ないってなってるわたしが女々しいだけなのかなぁ…… 「お待たせしました」 「ありがとうございます」  コーヒーを持って行くと、本から顔をあげて村雨が笑った。  その笑顔にドキッとして、急に顔が熱くなってきた。  ヤバい……久しぶりに見たから…… 「ご……ごゆ……ごゆっくりどうぞ!」 「はい」  緊張して上手くしゃべれない。  村雨が噛みまくっている春海の様子を見てクスリと笑った。  恥ずかしいやら嬉しいやらで、春海は早々にカウンターに引っ込んだ。  ぅ~……なんかわたしばかりがドキドキして……悔しい……!! *** 「ありがとうございました!またどうぞ!」  最後のお客を送り出して、看板を仕舞った。 「村雨さん、晩御飯にしましょうか」  春海が2階へと続く扉を開けて先に立って階段を登ろうとした瞬間、後ろに引っ張られた。 「えっ!?」 「……すみません……ちょっとだけ、充電させて」    一瞬なにが起きているのかわからなかったが、村雨が扉を閉めると同時に背後から春海を抱きしめてきたらしい。  村雨さんだ……  首元に村雨の吐息、背中に村雨の体温を感じて、胸がキュッとなった。  春海を抱きしめている村雨の腕を握って、斜め後ろを見上げる。 「ちょっとだけで……いいんですか?」 「ん?」 「わたしは、ちょっとじゃ……いやです……」 「っ!?……俺もですよ!……あ~~~もぅ~~~~っ!!!なにそれ!!久々に会ってそれはズルいですよぉ~!!」  村雨が春海の肩に顔を埋めて唸ると、春海の手を引いて階段を駆け上がった。 「わっ!ちょっ……村雨さん待ってっ!!」  転びそうになりながら、春海も慌てて駆け上がる。  村雨は荷物を適当に放り出すと、春海を抱きしめたままソファーに押し倒してきた。 「あ~~~~っ……すみません……もう限界。やっと会えたから……店に来た時から早く春海さんを抱きしめたくてっ……」  村雨が、春海の胸元に顔を擦り付けた。  なんだ……村雨さんも同じ気持ちだったんだ…… 「わたしも……」 「……え!?」  村雨が驚いたように顔を上げた。 「な、なんでそんなに驚いてるんですか!?」 「いや、すみません。春海さん、メールでも電話でもいつも通りだったから……俺だけかと……」 「それはっ……だって、お仕事で忙しいなら仕方ないし……毎日連絡はくれてたし……いい年してそんなワガママ言えないから……っん!?」  春海がごにょごにょと説明していると、村雨が口を塞いできた。   「じゃあ、春海さんも俺に会いたかったんですか?」 「あ……会いたかったですよっ!!だって何日も顔見てなかったし……」  ちょっと恨みがましく村雨を見ると、村雨が困ったような顔で笑った。 「すみません、社内試験があったから……春海さんの顔見ちゃうとどうしてもエロいことばっかり考えちゃうから、ちょっと勉強に集中したくて……あ、でももう試験終わったから大丈夫です!」 「エロっ……って……何ですかそれ!?そんな理由!?」 「そんなとは何ですか!俺にとっては大問題ですよ!!好きな人とエロいことしたいと思うのは男の(さが)でしょ!?」  久しぶりに会ったせいか、村雨が軽く暴走していた。   「春海さんは、俺といてエロいこととか考えたことないですか?」 「えっ!?……それは……」 「俺とキスしたいとか……触って欲しいとか……触りたいとか……思ったことない?」  村雨が春海の手を握り、指を甘く噛んだり、自分の指と絡めたりして弄びながら問いかけてきた。  春海を見つめる瞳が、いつもより熱っぽくて……触れられた指先から感情が溢れ出して胸が高鳴った。  キスしたい……触って欲しい……あ、そうか……これもエロいことに入るのか……  自分も村雨に対してそういう感情を無意識に抱いていたことに気づいて、一気に顔が熱くなった。  性欲は弱いと思っていたのに……村雨さんにはしょっちゅうエロいことばかり考えていた自分がなんだか恥ずかしい…… 「あ……あの……えっと……」 「あぁ、もう言わなくていいですよ」  一瞬、春海が即答しないので村雨が怒ってしまったのかと思って焦った。  目を上げて村雨を見ると、村雨が嬉しそうに笑いながら顔を近づけてきた。 「その顔見ればわかります。それだけでもう十分ですよ」 「っぁ……」  村雨が優しく口唇を食むと、ゆっくりと離した。  離れる瞬間、小さくリップ音がした。  その音が妙に艶めかしく身体の奥に響いた。  軽く伏せた瞳を開けると、村雨の瞳と視線がぶつかった。  言葉はなくても、お互いを求めていることは瞳を交わせばわかる。  もう後は、ただ、感情のままに口唇を重ね続けた――   ***  

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