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ホワイトクリスマス 第51話(春海)

「ウェーイ!!りっちゃんメリークリスマース!」  シャンパンの瓶を片手に持った赤ら顔のサンタが春海に絡んできた。 「はいはい、メリークリスマス!(かん)ちゃん飲みすぎですよ。もうお酒はそこまで!!」  春海は本日何回目かのメリークリスマスを苦笑しながら言うと、笑顔でシャンパンの瓶をサッと取り上げた。 「なんだよぅ~!おらぁまだ酔ってねぇよ!?」 「酔ってる人ほど酔ってないって言うんですよ!ほら、せっかく作ったんだから、お酒よりこっち食べてよ!」  春海はローストチキンを取り分けて目の前の酔っ払いサンタに手渡した。  酔っ払いサンタはまだブツブツ言っていたが、春海の手作りをいらないとは言えなくて一応食べてくれた。 「おっ!美味しいねぇ、さすがりっちゃんだ!いつでもお嫁に行けらぁな!!」 「そうですか?それは良かった」  お嫁さんかぁ……村雨さん貰ってくれるかな……って、何考えてるの!!  そもそも、わたし男だし!!  ため息を吐きつつ、陽気なクリスマスの曲が流れる店内を眺める。  毎年恒例のクリスマスパーティーだ。  愉快なサンタやトナカイが唄ったり踊ったりしながら、酒を飲んだり春海の料理を食べたりして楽しく過ごす。  春海もみんなが楽しそうにしている様子を見るのは好きなので、パーティーは大好きだ。  でも……  村雨さん今頃何してるのかな……今日は飲み会ないって言ってたけど…… 「わわっ!?」  村雨にメールを送ってみようかと思っていると、ちょうど携帯が鳴り出したのでびっくりして携帯を落としそうになった。  慌ててキャッチして、電話に出る。 「ははははひっ、はいいいい!!!」 「……え、春海さん?どうかしましたか?」 「あ……えと……すみません。ちょっと携帯を落としかけて……慌てちゃって……」  焦って変な返事をしてしまった……恥ずかしいぃ~……!! 「あぁ、そうだったんですか。大丈夫ですか?」  電話の向こうで村雨が笑いを堪えているのがわかった。 「はい!大丈夫です!」  半分やけくそに答える。 「え~と……今ちょっと出て来れます?」 「え?外ですか!?」 「はい、裏口の方にいるんで」 「わかりました、すぐ行きます!」  いつの間に来たのだろう……  春海のいるカウンターからは、外の様子がわりとよく見えるのだが、村雨が通ったのは気がつかなかった。  電話を切ると、みんなにバレないようにそっと裏口から外に出た。  店の入り口から死角になっているところに村雨が立っていた。  店内の客に見つからないようにしているのだろう。 「お待たせしました!雪降って来たんですね……」  暖房のきいた室内にいたせいで油断し薄着で出て来てしまった春海は、外の寒さに思わず自分を抱きしめた。 「すみません寒いですよね。すぐに済むんで」 「え?」  村雨が、ふわっと春海の首にマフラーを巻きつけた。 「メリークリスマス!安物ですけど……」 「え……これ……」 「一応クリスマスプレゼントです。渡すのはまた今度でもいいかなと思ったんですけど、せっかくホワイトクリスマスになったし……春海さんとの初めてのクリスマスだな~って考えてたら、なんだか無性に春海さんの顔が見たくなって……」  そう言って照れ笑いをすると、村雨がコートの中に春海を包み込んだ。 「これだと春海さんも温かいでしょ?」 「は……はい……」  そりゃもう、暑過ぎるくらいですけどっ!!??  春海はクリスマスに会えないのがわかった時点で、クリスマスプレゼントを村雨から貰えるとは思っていなかったので、どう反応していいのかわからなかった。  プレゼント……用意してくれてたんだ……  物凄く嬉しい……なのに、感動しすぎて上手く表現できない……  どうしよう……えっと……わたしお礼って言ったっけ!?嬉しいって伝えた!?  春海が頭の中で大騒ぎをしている間に、村雨が、春海をぎゅぅと抱きしめて、ふぅっと白い息を吐いた。 「……じゃあ俺、帰りますね」 「え!?もう……ですか?」 「ここにいたら春海さん風邪引いちゃう」 「でも……あの……もう少し、一緒にいたい……です……」  春海が、村雨の胸元に顔を埋めて言葉を振り絞った。  せっかく会えたのに。  クリスマスイブなのに。  せめてもう少し…… 「……そこ、ちょっと行ったところ――」 「……え?」 「イルミネーションが綺麗なんですよね。もし抜けられるなら、ちょっと一緒に見に行きませんか?」 「あ……はいっ!!」 「でも、その恰好だと寒いですよね。コート取ってきますか?中入るとみんなにバレちゃうかな……」 「あ、えと、外側から2階に上がればたぶん大丈夫なんで……ちょっと取ってきます!!」 「はい」 「待っててくださいね!?帰っちゃダメですよ!?」 「大丈夫、待ってますよ」  村雨が、何度も念押しする春海に苦笑しながら手を振った。  春海は急いで2階に上がると、コートと手袋と小さな袋を持って村雨のところに戻った。 「お……お待たせしま、したっ」 「そんなに急いで来なくても……ちょっと落ち着いて」 「だって……外寒いし……」  っていうか、村雨さんも一緒に2階に上がってもらえば良かったんじゃないの?  なんでこの寒い中外で待たせてたんだろう……あ~最悪……  急いで階段を昇り降りしたせいで、息が上がった。  その上、冷たい空気を思いきり吸い込んだので咳が止まらなくなってしまった。 「あぁ、ほら。大丈夫ですか?」 「だい……じょう……ゲホゲホッ……すみませ……」 「……ちょっとごめんね?」 「んむ!?」  なぜか急に村雨が手で口を押さえてきたので、若干パニックになった。    なに?なんで!?   「落ち着いて、ゆっくり息してみてください、大丈夫だから」 「んん!?…………スー……ハー……」  言われた通りにゆっくりと呼吸をしてみると、咳が止まった。  あ、これ……空気を温めてくれたのか……  手袋をした手で口元をカバーしてくれたので、マスクのような効果になって冷たい空気が温まったらしい。 「ぷはっ!……ありがとうございました!」 「いえいえ、昔……妹が冬になるとよく咳き込んで……こうしてやるとちょっとマシになってたのを思い出して……春海さんにも効いて良かったです」  村雨が少し懐かしそうな顔で口元を綻ばせた。 「そうなんですか……」  こういう時……気の利いた言葉が出てこない自分がイヤになる。   「さてと、行きますか!」 「……はい!」  村雨が春海の頭をポンと撫でて、優しく笑った。  何となく、気にするなと言われた気がした―― ***

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