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ホワイトクリスマス 第52話(春海)
大通りに出て少し歩くと、道沿いにイルミネーションが見えた。
腕を組んで歩きながら眺めたり、並んで写真を撮ったりと、道行く恋人たちが思い思いにイルミネーションを楽しんでいた。
「綺麗ですね……」
この時期、至る所にイルミネーションがあるのは知っていたけれど、暗くなってから家から出ることはあまりないので、実際見たのは数えるほどだ。
ここも、こんなにイルミネーションの数が増えているとは知らなかった。
店からすぐ近くなのに……
「……ですよ」
村雨が何か呟いたけれど、春海はイルミネーションに夢中になっていたので村雨の言葉が聞き取れなかった。
「え?すみません、今なんて言ったんですか?」
「春海さんの方がキレイですよ」
「……へ……?」
春海が村雨の言葉にびっくりして呆けている間に、顔が近付いていて軽く口唇が重なっていた。
一瞬で口唇を離した村雨が、悪戯っぽく笑った。
「……~~~~っ!?」
え?今キスした!?
うそっ!?外ですよここっ!!!
「ななんなんでっ!?」
「シーッ!声大きいって!」
「モゴッ……(ナニヤッテルンデスカー!!)」
村雨に口を押さえられたので、一応声を抑えて叫んだ。
「大丈夫、みんなどうせ自分の恋人しか目に入ってませんって」
「そんなこと言っても……」
さすがに男同士は……目立つでしょ……
誰かに見られていないかと周囲が気になってキョロキョロしてしまう。
村雨は、そんな春海の様子を見ると、
「コート着てマフラー巻いてたら男も女もわかりませんって。春海さん可愛いし」
と、事もなげに言った。
「かっ……!?いや、でも……」
可愛いって……三十路前の男に可愛いはないでしょ!?
と言いかけたが、村雨の場合はからかっているのではなくて本気で言っているらしいのでツッコむのはやめた。
「気にしたら負けですよ。堂々としてたら意外とバレませんって。ほら、こういう時は楽しんだもの勝ちですよ!」
村雨はそう言うと、春海の手を握って歩き出した。
えええ!?ちょ、村雨さん!!手……手ぇえええ!!!
内心冷や冷やだったが、村雨があまりにも自然に歩いていくので、なんだか周囲を気にしている自分がバカらしくなってきた。
確かに、二人に注目している人なんて誰もいない……
みんな恋人かイルミネーションしか目に入っていないみたいだ。
そうか……それなら……
クリスマスだし……これくらい……いいよね?
『レインドロップ』がほぼ年中無休のため、村雨とはちゃんとしたデートをしたことがない。
デートをしたくないわけじゃない。
できるならしてみたいし、恋人っぽく振る舞えなくてもせめて二人でどこか出かけたいと思う。
ただ、機会がなかっただけだ。
付き合ってから一緒に出掛けたのは、春海の買い出しに付き合ってもらった時くらいだ。
その時は荷物を持っていたし人通りが多かったしでこんなことできなかった……
だから、村雨と外で手を繋ぐのは初めてだ。
村雨が春海の手をしっかりと握って少し前を歩いていく。
春海は村雨の背中を追いながら、何とも言えないくすぐったさを感じていた。
――
イルミネーションをバックに二人で写真を撮ったり、他のカップルに混じってちょっと大胆に抱きついてみたり……
ホワイトクリスマスとイルミネーションという最高の条件が相まって、誰もが雰囲気に酔って自分たちの世界に入り込んでいる状態だったので、春海たちも普段なら絶対にできないようなことがたくさんできた。
夢のような時間はあっという間に過ぎて行った。
「そろそろ戻らないと、さすがに誰か春海さんがいないことに気づいて探してるかもしれませんね」
「……そうですね……」
村雨の言葉に、出て来る前の店内の様子を思い出していた。
たぶん、ほとんどが酔い潰れているので、春海がいないことに気づく人はいないと思うが……
かといって、いつまでもここにいるわけにもいかない。
次に会えるのはお正月明けなのかな……
また数日会えないのは淋しいが、今日も会えないと思っていたのに会いに来てくれたから、それだけで十分だと思った。
「あ、そうだ。これわたしからのクリスマスプレゼントです」
「え!?」
春海は、ずっとポケットに入れていた小さい袋を出した。
「すみません、すぐに渡せば良かったのに……ちょっとぐしゃってなっちゃった……」
「全っ然大丈夫です!!開けてみてもいいですか!?」
「どうぞ。でもあの……わたしあんまりセンスとかないので気に入らなかったら捨てて下さいね」
春海は数日前、村雨のクリスマスプレゼントを買うために半日店を休みにして出かけた。
でも、村雨の好みがまだよくわからないので、悩みに悩んで手袋にした。
「気に入らないプレゼントはただのガラクタ」
昔付き合っていた女の子に言われた言葉が頭に残っていたので、咄嗟に「気に入らなかったら捨てて下さい」と言ってしまったのだが……
村雨が、手を止めて真顔で春海を見た。
「何言ってるんですか!!絶対捨てませんよ!?」
「え……あ、はい……」
「好きな人が自分のために一生懸命選んでくれたプレゼントを捨てたりなんかしませんよ!一生大切にします!!」
「あ……ありがとうございます……」
村雨が自分の手袋を外して、嬉しそうに春海のプレゼントした手袋に手を入れた。
「わたしもこのマフラー、ずっと……一生大切にします!!」
「……はい」
春海の言葉を聞いて、村雨がふわっと微笑んだ。
あぁ……好きだな……
村雨の言葉やこの笑顔が、作られたものじゃないというのが感情から溢れている。
共感力を使わなくても感じとれるくらい、真っ直ぐな村雨の感情が、嬉しくて、照れくさくて、くすぐったかった――
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