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憂鬱な期間 第55話(春海)
「ごちそうさま。じゃあ、よいお年を~!」
「はい、来年もよろしくお願いします!よいお年を!」
今年最後の客を見送ると、春海は店を閉めた。
店内を掃除して、2階に上がる。
明日は、昼から大掃除して、年越しそばを買いに行って……
毎年、12月31日と1月1日は『レインドロップ』も休みだ。
だが、祖父が亡くなって一人になってからは、そのたった二日間を一人きりで過ごすことに耐えられず、結局数時間でも店を開けてしまう。
だから、今は実質的に年中無休状態になっている。
休める時に休むのは大事だとは思うが、誰とも会話をせずに2日間一人でいると、どうしても気持ちが落ち込んでしまうのだ。
だから、年末年始は、春海にとっては一年で一番憂鬱な期間だ。
おせち料理は……もういいか。
祖父と暮らしていた時は春海がおせち料理を作っていた。
でも、自分一人になると作る気にもならず、ここ数年は作っていない。
晩御飯をどうしようかと思っていると、チャイムが鳴った。
「はーい!どちらさまですかー?」
「あ、村雨です」
「え!?村雨さん!?あ、ちょちょちょっと待ってくださいね、すぐ開けます!!」
急いで扉を開けると、私服でスポーツバッグを持った村雨が立っていた。
わぁ、村雨さんの私服姿……久しぶりだぁ……
「こんばんは、今日は店閉めるの早かったんですね」
「え、あ、はい。一応年末なので……」
「あぁ、そうか。じゃあもっと早く来れば良かった」
「あの、どうして……」
「とりあえず、中入っていいですか?」
「あっ!!はいっ、すみません。寒いですよね!!どうぞ」
村雨を中に案内しながら、春海は混乱していた。
村雨は年末年始も、連日飲み会が入っていると言っていた。
それに、お正月は伯母さんの家に行くと……
だから、次に会えるのは正月明けだと思っていた。
一体どうしたんだろう?
ドサッと村雨がバッグを置く音で、我に返った。
「え……と……今日はどうしたんですか?あ、もしかしてこれから伯母さんの家に?」
そう考えれば荷物を持っていることも納得できる。
里帰りの前に顔を見せに来てくれたのだろうか……
「え~と、俺3日までここに泊めて貰っても良いですか?」
「へ!?」
「12月に入ってからほとんど会えなかったから……年末年始、一緒に過ごしたいな~って……あ、春海さんどこか出掛ける予定ありましたか?」
「な……ないですっ!ないですけど……村雨さん忙しいんじゃ……」
「仕事関係のどうしても出なきゃいけないやつはもう終わりました。後は……仲間内の飲み会なので、断りました。正月は3日間のうちのどこかでとりあえず一回伯母さんのところに顔見せに行きますけど、すぐに帰って来るつもりです」
「そ……うなんですか」
「……迷惑でした?」
村雨が不安そうに春海を見た。
「迷惑なんかじゃ……じゃあえっと、今日から3日まで……一緒にいてくれるんですか!?」
「はい」
「ここに泊まってくれるんですか?」
「春海さんさえ良ければ」
「……わたしは……嬉しいですっ!!」
「良かった、断られたらどうしようかと……」
村雨がほっとした顔で春海を抱き寄せた。
一人じゃないんだ……
年末年始を大好きな人と過ごせる……
憂鬱だった気持ちが一気に吹き飛んだ。
嬉しくて泣きそうになったので、村雨の背中に回した腕にギュッと力を込めた。
「あ、あの晩御飯食べましたか?」
「まだです」
「じゃあ、一緒に食べませんか?私もこれからなので」
「そのつもりで来ました」
村雨がニッと嬉しそうに笑った――
***
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