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その夜、私の天女は、香港の港の倉庫街にいた。江からレヴァントの刺客が香港に降り立ったらしいという情報を受け、見物がてら足を運んだ。しかしてその甲斐はありすぎるほどあった。
洋上で双眼鏡を手にする私の眼前でアサルト-ライフルを華麗に撃ちまくるその姿はニーベルンゲンのブルンヒュルデいやヒンディー神話のドゥルガーそのものだった。
私は「彼女」に敬意を表し、湾岸のオープンカフェに先回りして、美酒を捧げた。
そして、驚いた。
ー苓芳.....ー
私の唯一人の愛しい女。西洋の獣どもに穢され、命を奪われて天に還ってしまった、私の女神に瓜二つだったのだ。
その声、その口調からその人が「彼女」でなく「彼」であるのはすぐ解ったが、だが私にはそのようなことはどうでも良かった。
彼が再びこの世に降り立った天女。苓芳が私の愛に応えて顕現したとしか思えなかった。
彼....苓芳の姿をした青年は、苓芳が解脱した姿、善女竜王となった姿に疑いようがなかった。
そして、彼を所有するレヴァントに一層の憎しみを抱いた。
彼はレヴァントの、シヴァの妻(ドゥルガー)ではない。私に、ナーガラージャに奉られるべき女神なのだ。
ー取り戻す...ー
私は私の女神をレヴァントから取り戻し、真の目覚めを促さねばならない。
私は、部下に命じて、『彼』について徹底的に調査させるように命じた。経緯から、あのカタログの青年、リョウ-タカセではないか.....と部下は報告してきたが、私は否定した。あのひ弱な青年が僅かな時間で、あのようなアサルトの撃ち方は出来ない。ベトナムの戦場でアサルトを握った私にはわかる。
彼に似た、似て否なる者.....蘇った苓芳をレヴァントから取り戻す。
私の暗闇の日々に一条の光が指したように思えた。
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