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ジャングルの雨季は長い。湿った雨音が絶え間なく続き、全てのものがしとどに降り注ぐ水に浸され、温びた腐臭が辺りを包み込む。
「頭主さま....」
一人の男が私の傍らに跪く。
「お客様がお見えです」
「誰だ?」
「アージナル卿です。新しい『玩具』を試したいとのご所望です」
「もう前のものには飽きられたか......」
「愛し過ぎてしまってね。壊れてしまった」
扉のあたりから、くぐもった澱んだ声がした。身形は一流のブランド品に身を包んでいるが、紳士然とした貫禄を湛えた男のその目は濁って、死んだ魚のそれのようだった。
「卿のお好みの人形がいますかどうか.....」
「なに『躾』はこちらでする。値段はかまわぬ。......壊れた人形はいつものとおり、こちらで処分していただけるかな?」
厚かましいふてぶてしい笑い顔に胸が悪くなりそうだ。私は傍に控えていた部下に展示室に案内するように命じた。
アージナル卿は思春期の少年を好む。十二~三才の子なら、最近、行方不明になったアメリカ人旅行客の子どもがその年頃だろう。
私は数時間後に、アージナル卿が新しい『玩具』を高値で購入し、以前の『人形』を預けていった旨の報告を受けた。
ぺドフェリアの客は好みの年代が固定しているから、需要に応えるのが困難なだけでなく、その年齢を過ぎると返却してくる場合が多い。返却された子どもは大概がすでに精神に異常をきたすか、一般社会に戻すことの難しい状態になっている。
そのため、私の部下達の営む娼館で、『部品』のオーダーがくるまで異常性欲者達に奉仕を続けることになる。商品が女性の場合、その腹の子も広い意味での『商品』のため、娼婦として我々の管理下に置いて客に提供することが大半だが、少年は特異な嗜好の客が多いため、無事な状態での回収はまず期待できない。
私の組織で扱う『商品』は上質でなければならない。『部品』に至るまで有効に活用する『人形』と、最初から『部品』を採取するための粗悪な『資源』とは、最初から選り分けて飼育している。
『人形』は、様々な人種がいるが、いずれにしても、容姿の整った高い教養を持つ毛並みの良い素材でなければならない。
この徹底した『品質管理』により、私は顧客達に信頼を得ているのだが、最近になって、東欧-北欧地域からの素材の入手が困難になってきている。同時に顧客も減少した。
それはひとえに、あのレヴァントの勢力拡大による。初代は麻薬取引の顧客だったが、ミハイル-レヴァントは私のシンジケートの末端組織を旧ソ連地域がらことごとく排除し、傘下のファミリーには麻薬の取引も禁じた。反対や離反する組織は悉く殲滅され、ミハイル-レヴァントは欧州のマフィアの帝王となりつつあった。
かの麗人は、そのミハイル-レヴァントの最も寵愛する、いや唯一無二の情人であり、直属の刺客(スークー)だというのだ。
まったくもって許しがたい事だ。私は一刻も早く、彼を目覚めさせ、レヴァントに鉄槌を下さねばならない。
私は、まず彼を説き伏せるために、サンクトペテルブルクに向かった。部下からの情報によれば、レヴァントは彼を一切単独で街中に出すことはなく、常に自ら伴って出掛けるという。
幸いにも、サンクトペテルブルクに到着して三日の後、私は彼に巡り合うことができた。
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