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 レヴァントはなかなか屈強だった。サンクトペテルブルクのヤツの本社への急襲はロシア空軍に阻止され、ヤツ本人への銃撃もすんでのところで失敗し、浅手を負わせるに留まってしまった。だが、そんなことは大したことではない。アスラの王は三千年の長きに渡って帝釈天と戦ったのだ。  私はヤツの周辺とかの麗人について徹底的に洗い出すように部下に命じた。不思議なことに、かの麗人の前歴は驚くほど謎だった。  私は以前に、かの麗人の周囲にまとわりついていた虫けらども.....彼が凌征会のリーダーを始末した折に接触した楊ファミリーの周とその部下を駆除した。が、その時にも、さしたる情報は得られなかった。  あの彼に良く似た青年、タカセ-リョウの関係者を探ったが、接触した形跡は一切無かった。高瀬諒は精神を病んで自死し、その葬儀に立ち合った妹もなんの疑惑も示さなかったという。 ー彼はタカセ-リョウではないー  私は人づてにかの麗人の映像をタカセ-リョウの妹に見せたが、別人だと断言したという。表情も仕種もまるで違う......というのだ。  だが、なぜか不思議に、私にはその笑顔に、仕種におぼろげに見覚えがあった。  盗撮させた映像ーあの獣のレヴァントに組み敷かれる姿や、教会に襲撃をかけた時に身を投げ出してレヴァントを庇った様は、私を激怒させたが、彼が憎むべき仏敵、レヴァントに笑いかけるあの表情はどこか懐かしく、私の冷えた魂をじわりと温める。あの笑顔はレヴァントのような輩に向けられるものではない。他ならぬ私に向けられるべきものだ。 ー彼は、いったい何者なのだ......ー  私は、香港に魂を視ることの出来る著名な道士がいると伝え聞いて、部下に探索、接触を命じたが、既に不慮の事故で故人となり、その術を伝える弟子も死に絶えているという。 ーまあ、いい...ー  素性などわからぬほうが、天から舞い降りた女神には相応しい。  あの獣から奪い返し、ゆっくりと本来の自身を思い出させれば良いのだ。      ーだが、あの獣だけは許さないー  私の女神を穢し貶めた邪神の使い、レヴァントを締め上げて、なぶり殺す。そして、その血肉をナーガの神に捧げて、女神の再臨を祝うのだ。  私は、ヤツを葬る計画を十全に練った。ヤツの周辺のファミリーの全ての中に、徹底的に穴を探した。  

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