12 / 24

11

 南へ下る船は、夜半に紛れてオランダの港に着いた。ここからは、空港に用意をさせたチャーター機で、一路私の君臨する王国、アジアのゴールデントライアングルの奥地に設けた私の住まいへと彼を運ぶ。密林のその奥、かつては先住民のいたそこには、いまは鬱蒼たる木々に隠れて、白亜の『要塞』が私の帰還を待っている。 「傷の手当てをする、キットを.......」  私は、ストレッチゃーで機内の特別室に運び込んだ彼の衣類を脱がせるようにガルドゥスに命じた。幾つもの刀子を仕込めるように作られたレザースーツの下には、特集繊維の防弾チョッキを兼ねたアーマード-インナー、その中から象牙色の滑らかな肌が現れた。  右腕の傷はほんの掠り傷程度だが、跡が残るのは好ましくない。私は丁寧に傷口を消毒し、テープで接合し、軽く包帯を巻いた。 「下も......ですか」  尋ねるガルドゥスに私は無言で頷いた。眠っている間に健康状態も確認しておくためだ。小さな下着一枚になった彼の肢体はどこまでも美しく均整の取れたものだった。滑かな肌に触れた手を押し返す筋肉の張りは、過不足なく常に鍛練されている力強さがあった。 ー単なる性愛の相手ではない......かー  首筋や胸元に散る、消えかけの鬱血痕が、レヴァントと彼がそういう関係であることを匂わせ、仄かに私を苛立たせた。体毛のキレイに処理され、手入れされたしっとりとした皮膚の感触は日々、巷の女性よりも入念に大切に扱われている証だった。そっと面積の小さな下着を外すと、愛らしい性器が慎ましやかに顔を覗かせ、微かに色づいた後孔の周囲が僅かに綻んでいた。陰毛は全く無く、つまりは完璧に手入れされ、彼がレヴァントにとって、最愛の『レディ』であることを証拠だてていた。  が、私の眼を奪ったのは、何より、その背に花開いた薄紅の蓮の花だった。  尻の合わいから瑞々しい茎を伸ばし、腰の中央に秘めやかに一輪の花が開き、寄り添うように開きかけた花が一輪と綻び始めた蕾、青々としたなだらかな輪郭を持つ葉が、それが蓮花であることを強調していた。 ーレヴァントめ.....ー  女神の背に刺青を施すなど許しがたい暴挙だが、呼吸の度に微かに揺れるその花は、むしろ隠しがたい神性が零れるようだった。妖艶で、だが妙に浄らかな気配を漂わせる薄紅の花弁に私はそっと手を触れた。  崇高な秘めやかな恋の花......それは間違いなく私のために花開いたものだ。決してレヴァントなどのためではなく.....。 「ん......」  胸郭を圧迫され、呼吸がやや苦しいのだろう。私は改めて彼の身体を仰臥位に戻した。その時、彼の指が私の指先に触れた。彼は一瞬、私の指先を握りしめた。それは遠い昔、あの少年が見せた仕草にひどく似ていた。

ともだちにシェアしよう!