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 邑妹(ユイメイ)は、彼女は、彼...彼女の恋しい姉の魂を宿した青年に近づくと、そっと頬を撫でた。 「小狼(シャオラア).....なぜ....」  再会を喜ばねばならないその唇が呟く言葉は、何故か哀し気で、私を苛立たせた。彼女もまたあの獣の、レヴァントの悪魔の毒に穢されている。だが、彼と苓芳(レイファ)の魂を宿した青年とここで過ごすようになれば、彼女もまた正気に戻る。あの戦争の前の私達の穏やかな日々を取り戻せる。 「だって....ミーシャが.....」  私は、言いかけた彼の言葉を遮って、言った。 「レディは私の狩りを妨げた。身を挺してあの野獣を.....ミハイルを逃がした。せっかくの獅子狩りを台無しにしてくれた」  邑妹(ユイメイ)の目が、彼を見詰めた。僅かに頷いた彼の表情がレヴァントの無事を喜んでいるようで、私は実に不愉快だった。 「まぁ.....私にとってはあのような愚かな獣はいつでも狩れる。レディが私の手の中に堕ちた今、あの男は牙を無くした哀れなハグレに過ぎない。.....牙の無い獅子など見かけ倒しの猫に過ぎない」  彼は背中越しに崔を睨み付け、邑妹(ユイメイ)が宥めるように、彼の肩を擦った。私は、彼と邑妹(ユイメイ)を見下ろし、血迷った幻想を振り払うように告げた。 「邑妹(ユイメイ)、姐姐(姉さん)はまだ悪い夢の中にいる。一日も早く昔の記憶を取り戻させねばいけない。......わかるね?」  邑妹(ユイメイ)の顔色がさっ.......と青ざめた。 「止めて!」  彼女は半ば泣きそうな声で言った。 「伯嶺.....小狼(シャオラァ)に酷いことしないで!」  私は彼女もまた悪い夢から目覚めさせねばならない。 「邑妹(ユイメイ)、姐夫(義兄さん)と呼びなさい。苓芳(レイファ)は私の妻になるのだから....小狼(シャオラア)などと、二度と呼んではいけない」 「でも.....」 「心配はいらない。....すぐに前世の記憶は戻る。....私は名医なのだからね」 「伯嶺.....」 「姐夫(義兄さん)だ」  私は、邑妹(ユイメイ)を諌め、ベッドの端に軽く腰をかけ、力の入らない彼の身体を抱き起こした。私の愛しい可憐な唇が微かに揺らめいていた。  この唇にあの獣はどれだけの毒を吹き込んだのだろう。   「......ん、んむぅ....」  私は彼の顎を掴み、その口を押し開いた。獣の毒を拭い去らねばならない。怒りにかられた私は我れ知らず、その口中を貪ってしまっていた。  その両の眼から、清らかな滴が零れ、頬を伝っていた。 「あぁ....少し遣り過ぎてしまったかな。レディがこんなに純情とは....」  私は己れの欲望を恥じ、彼の頬を指で拭い、再びベッドに横たえた。彼はほっと息をついた。そしてその時になって初めて全裸であることに気づいたらしく、恥ずかしさに頬を赤らめた。 「あの.....何か着るものは無いのか?寒いんだが....」  私は先だってから用意していた衣装のことを思い出し、邑妹(ユイメイ)の方を見た。 「薬が切れたらレディに繻衣を....。私の妻に相応しい姿容をさせねば....。但しまだ邪気が体内から抜けていないようだから、枷はさせておかねばな.....」  私は部屋を出て、メイドに衣服を用意してくるように命じた。アオザイよりなお相応しい、天女の羽衣を苓芳(レイファ)の魂に捧げた。  そう、柔らかい、シルクの極薄い生地の繻衣をまとった彼は実に美しく魅惑的だった。若草色が白い肌によく映えて、淡い杏色の裾がひらひらと揺れる様はまさに天女が舞うようだった。 「なぁ、これ薄すぎやしないか......」  邑妹(ユイメイ)に着付けられる様を傍らで眺めていると、彼がまた、小鳥の嘴のように唇を尖らせて言った。実に愛らしい。 「よくお似合いですよ。レディ...まさに地上に降りたった観音菩薩のようだ」  彼は深く息をついて、つん......とそっぽを向いた。拗ねた時の苓芳(レイファ)の仕草そのままだ。  しかしながら、熱帯の気候のもとでは暑さに慣れない彼の肉体は、それでもかなり汗だくになるらしい。柔らかい生地が肌に張り付く様がなんとも艶かしい。私はその姿を視界の端に観賞しながら、かつて無い幸福感に包まれていた。これで私の肉体が万全ならば、躊躇なく彼を苓芳(レイファ)の魂を、抱き締めただろう......。

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