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「何をしている」  私の苓芳(レイファ)にのし掛かる影が、弾かれたように身体を起こした。振り向いた顔は、卑しく醜い獣そのものだった。私の内で憤怒が激しく吹き上がっていた。 「頭主さま......」  私はポケットから銃を出し、あの日の慟哭のままに、私の部下の姿を借りた悪魔に照準を定めた。醜く顔を引きつらせたその眉間に向かって銃爪を引いた。私の放った銃弾は真っ直ぐに、見事に悪魔の頭部を撃ち抜いた。  私は悪魔に勝利したのだ。 「崔.....」  私の苓芳(レイファ)は恐怖に身を震わせ、怯えた眼差しで私を見上げていた。私は苓芳(レイファ)の傍らに寄り、息絶えた男の死体をその体から引き剥がし床の上に投げ捨てた。 「苓芳(レイファ)、大丈夫か?怖かったろう......済まなかった。悪魔が入り込んでいたとは....」  私は硬直したその面に優しく語りかけ、青ざめた頬をそっと撫でた。穢れた返り血を指先で拭い、微笑みかける。 「大丈夫だ。よく分かったな...」  目の前で、かろうじて息を整え、唇を震わせて私に答えたのは、苓芳(レイファ)ではなかった。そうだ。苓芳(レイファ)はあの悪魔どもに奪われた。だが、魂となった私の苓芳(レイファ)は、この青年の内に宿り、眠っている....。  私は間違いなく、苓芳(レイファ)の魂を恐ろしい悪魔の手から守ったのだ。 ーあの時とは違う....。ー  私の中からすっ....と怒りが消え、深い安堵が生まれた。 「監視カメラがあるのでね」  私は平静に戻り、彼に答えた。  そして、このような穢れた場所にこれ以上一時たりとも、彼を苓芳(レイファ)を置いておいてはならない、と悟った。  私は彼を抱き上げ、悪魔の死体を踏み越え、腐った血と脳髄を掻き分けて、浴室に運んだ。 「念入りに清めなければ.....」  私はワイヤレスで侍女達を呼ぶように命じた。『素材』の中から、苓芳(レイファ)に、神に仕えるに相応しい容姿と立ち居振舞いの者を選び出し、そのように作り上げた者達だ。  私の教えどおりに、深く頭を垂れ跪く彼女達に、苓芳(レイファ)の、彼の身体を浄めるよう命じた。 「善女竜王のお身体を浄めて差し上げよ。お前達の主だ。心を込めて丁重にな」    私は侍女達に付き従われ、彼が入浴をしている間に、部屋を綺麗に浄めるよう、ワイヤレスでガルドゥスに命じた。 「血の一滴の痕跡も残してはならない」  ガルドゥスは忠実に私の命に従い、『女神の間』を清めた。  私は邑妹(ユイメイ)に、彼の着替えをさせ、再び部屋に連れ戻った。香を薫き、血の匂いを消し、新たに整えた臥し所にその肢体を横たえ、そっと唇を重ねた。 「怖い思いをさせて済まなかった。許して欲しい......」  彼は何故か、一層怯えた眼差しで、私を見上げ、小さく呟いた。 「俺は、あんたのほうが怖い。......」  私は彼の額に口づけ、優しく宥めた。 「私は怖くなどない。......苓芳(レイファ)、君を愛しているだけだ」  彼は小さく頭を振り、私は静かに扉を閉めた。  

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