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2*性描写

 ブラックドッグは唖然とし、言葉を失っていた。ユリアトゥスの言葉を反芻し、理解が追いつくと瞼が引き攣る。  こいつと、アレウスとまぐわえだと? 試合と、報酬のために? そんなおぞましい話があるか。  怒声を上げる前に、隣で沈黙していたアレウスが口を開いた。 「承服しかねます。セネカとの大試合が組めるとしても、この野獣と寝るくらいならば舌を噛み切って自死を選びます」 「死んでも借金は消えぬ」  アレウスは再び口を閉ざした。 「闘技会には皇帝陛下もいらっしゃる。良い試合をし陛下がお喜びになれば、残りの額と同じ分を報酬としてやろう」 「!」  隣でアレウスが揺らぐのがわかった。  借金の存在は初耳だった。金のために剣闘士に身を堕としたとは知っていたが、金を返済するためだったのか。  残りの額と同じ分、つまり完済できる。それはすなわち、奴隷から自由民へ戻り、剣闘士養成所を出るということだ。  劣悪な環境から解放され、ヴァレンティーナ市民として人間の生活を送ることができる。惹かれない訳が、ない。 「おい……迷う必要なんかねえだろうが」  間違っても承諾してくれるなと、ブラックドッグはアレウスの肩を強く握った。 「セネカと大試合しなくたって筆頭闘士なら報酬はでかい額入るだろ」  元自由民で、借金のために剣闘士になったのなら、時間はかかったとしても完済すればいずれは養成所を出られる。焦らずとも、確実にだ。ブラックドッグとは、違うのだ。 「俺は、承諾しねえからな。報酬なんざどうでもいい。こいつの事情も、知ったこっちゃねえ。俺はもう戻る」  アレウスのために、報酬のために、気に食わない男となど寝るものか。ブラックドッグは、アレウスと主人たちに背を向けた。酷く不愉快で、気分が悪い。腹の底がじりじりと焼けて、憤りで煮えている。明日の訓練で思う存分発散してやる――歩き出したブラックドッグの耳は、小さな呟きを拾う。 「……わかりました」  そうか、いい判断だ、とユリアトゥスが称える。  聞き間違いか、と振り向いた時には、アレウスは既に距離を詰めていた。 「てめ……、がッ!」  ふわりと、香油の花の香り。同時に、衝撃に視界が揺れる。遅れて額と前頭に鈍い痛みが走った。頭突きをされたのだ。剣闘試合でされるような、かなり強烈な。  体勢を崩したブラックドッグの腕を掴み、アレウスは強引に引き摺って重い身体を押し飛ばした。だが床に叩きつけられる衝撃はなく、ブラックドッグが落ちた先は寝台だった。  地下牢の硬く冷たい地面は知っていても、身体が沈み込む柔らかさは、かつて経験したことのないものだった。だがそれに感動を覚える暇もなく、ブラックドッグは差した影に吠えた。 「何しやがんだ……!」 「大人しくしていろ」  動きを封じるようにアレウスがのしかかってくる。見上げると、寝台の側まで来た奴隷が杯を手渡している。アレウスはそれを乱暴に奪って一息に煽ると、ブラックドッグに覆い被さり顔を近づけた。 「っ、……ん、ん゛ッ」  唇に痛みが走った。アレウスに口づけられている。接触の勢いで歯が当たり、切れたらしい。  混乱のまま強引に抉じ開けられた口に、生ぬるい液体が流れ込んで来る。どろりとしていて、苦い。飲んでたまるかと堪えるが、突然、鼻を摘ままれた。 「ン゛っ、――!」  殺す気か、と眼前に光る薄い色の瞳を睨みつけ、自由な手で肩を殴ったが、応じる気はないようで相変わらずの冷気を宿している。  屈強な剣闘士であるブラックドッグも息苦しさには我慢できず、口内に溜まり温かくなった得体の知れない液体を嚥下した。どうせ死ぬ訳ではあるまい。  喉の鳴る音を聞くと、アレウスの顔は離れていく。 「っは、……何、飲ませやがった」 「弛緩剤だ」  答えたのは、腰かけた長椅子から寝台の上の剣闘士を眺めるユリアトゥスだった。 「弛緩剤……?」 「強いものだ。すぐに効いてくる。抵抗するのなら、必要だろう」  喉を降りていく苦い味。無意識に喉元を押さえるが、手遅れだ。 「下衆……変態野郎が……!」 「剣闘試合で市民を楽しませるのと何も変わらないだろう?」  市民にとって闘技会は娯楽だが、多くの奴隷剣闘士にとってはそうではない。常に死と隣合わせ、あるいは死そのもの。絶望の中、己の命を勝ち取ってようやく安堵する。享楽や栄誉に変わるのは、生き延びた後だ。  アレウスの手がブラックドッグの肩を寝台に押しつけ、もう片手は裸体に唯一身につけた腰布にかけられる。引き剥がそうと相手の腕を掴むが、自身の指先に力が入らないことに気づいた。ただ触れるだけの武骨な指先を、アレウスは揶揄する。 「もう薬が聞いているのか。そんな弱々しい力で剥がせると思うのか?」 「クソっ、飲んでなかったら、てめえの面血みどろにしてるとこだ!」  声を荒げ吠える。しかしアレウスは容赦なくブラックドッグの腰布を取り去る。ほとんど裸に近い剣闘士は、いとも簡単に一糸纏わぬ姿になる。 「正気じゃねえ……金のためなら何でもするのかよ、クソ野郎」 「……何でもするさ。多くの者は、金のために何でもする。報酬のために戦う。お前は理解できんだろうな」  アレウスが頭上で嘲笑う。人ひとり買えるほどの金を得ても、捕らえられた山の民であるブラックドッグは、奴隷という泥沼から脱することはできない。  このおぞましい一夜を堪えれば、アレウスには自由が待っている。セネカとの剣闘試合など、ひとりでも十分に立ち回れのだろう。  ――最悪だ。アレウスの自由のために、自分ひとり犠牲になれというのか。 「容易に動けんと思うが……もし暴れたら、握り潰すからな」 「っ……」  白い掌が、ブラックドッグの外気に晒されたペニスを握り込む。容赦ない握力の気配に、項が冷たくなる。  長椅子に寛ぐユリアトゥスが、悠然と脚を組み替える。 「アレウス、それでは一方的な凌辱と同じだ。私が何と命令したか、覚えているか」 「……目を、楽しませよと」 「そうだ。どうすればいいか、わかるな?」  寝台の横に、ユリアトゥスの奴隷が擦り寄る。彼の手が差し出した硝子の小瓶を釈然としないながらも受け取り、アレウスはすでに栓の抜かれたそれを傾けた。 「っ! 何……」  とろりとした冷たい液体が、下肢に垂らされる。アレウスの手が握ったままの萎えたペニスが、得体の知れない感触に臆して震える。  警戒して見上げると、アレウスはふいと視線を外した。そしていかにも不本意な様子で唇を引き結んだまま、とろみのある液体をペニスに塗り込めるように手を動かし始めた。 「っう、……ッ」  アレウスの手はブラックドックの竿を握り、にゅち、にゅち、と粘った水音を立てて扱く。加減のない握力は少し痛みを感じるほどだった。  だが、強引に性感を引き起こさせる。緩やかに硬度を持ち始めた性器にとって、容赦ない手淫は苦痛から快楽へと移り変わっていく。  ブラックドッグのペニスはあっという間に体積を増して天を向いた。完全に勃起するまでの早さにブラックドッグ自身、驚いていた。自慰をする時だって、もう少し時間はかかるのだ。 「はな、せ……!」  ブラックドッグと同じマメだらけの掌が、追い立てるように扱く。硬い皮膚の感触が敏感な裏筋を何度も刺激する堪らなさに、目を硬く瞑って奥歯を噛み締めた。  内腿が震え、呆気なく達する。びゅ、びゅ、と先端から飛び散った白濁が自身の腹を濡らす。 「……っは、…は、ぁ……」 「随分早いな。早漏か?」 「ちげぇよ……!」  自慰を覚えたばかりの少年のような射精までの時間の短さに驚きながら、ブラックドッグは再び這い上がり下腹に停滞する熱の存在に感づいていた。吐き出したばかりのペニスが、物欲しげに揺れている。 「んだよ、これ……」 「山の民は効いてきているようだな。アレウスはどうだ?」    剣闘士が息を乱す様子を長椅子から眺めるユリアトゥスの声は愉悦に満ちている。 「湯浴みをさせた後に飲んだだろう。お前もそろそろ効いているんじゃないか」  女奴隷たちに強引に身体を洗われた後、香油を塗りたくられながら差し出された杯のことを思い出した。喉が渇いて飲み干した杯の中身は、爽やかな柑橘の風味がして、ただの檸檬水か何かだと思っていたが、もしや混ぜ物がされていたのか。  ブラックドッグが額に掻いた汗を指先で拭いながら自身の腰を跨ぐアレウスの下肢に視線をやれば、まだ腰布に覆われたままの股間は確かに膨らんでいる。  ブラックドッグ自身には決して顔を向けないアレウスと、一瞬だが視線が交わった。薄氷が張ったような瞳が、わずかに揺らいだように見えた。 「一度、剣闘士の交尾を見物したかったのだ。闘技場で雄々しく、荒々しく戦うけだものが、寝台の上でどのように相手を組み敷いてどれだけの激しさで腰を振るのか」 「……悪趣味だな、てめえ」 「奴隷剣闘士に抱かれたがるご婦人もいるそうじゃないか。私の夢想とそう変わらない……さあ、続けてくれ。私も少し、興奮してきた」  気色の悪い発言に盛大に舌を打ち、ブラックドッグは頭上を見上げた。再び無感情を張りつける冷徹な男の表情に、 「やるならさっさとやれ」 「……潔く諦めたか?」 「こんなクソみてえな茶番、早く終わらせてえだけだ」  仮にこの男と寝るにしても犯されるのだけは勘弁、せめて竿を突っ込んで腰を振る方なら譲歩できる――が、薬を飲まされた身でアレウスに抵抗しても捩じ伏せられるのは目に見えているのだ。ならば、目を瞑ってこの悪夢のような時間が過ぎるのを待つしかない。  中に入り込んだ指が生き物のように蠢く。骨ばった硬い三本の指が、ぐちゅぐちゅと音を立てて奥へ進み、引き、穴を拡げるように開く。 「っう、ぐ……っ、ぁ」  俯せになったブラックドッグは顔をシーツに伏せ、大きく脚を開いて尻の狭間にアレウスの指の侵入を許していた。  一度絶頂に達したペニスは、自身の硬い腹と寝台に挟まれ、停滞したままの熱とわずかな摩擦によって再び勃起している。もう一度、射精したい。霞がかったような思考の中で、欲望が渦巻き、今はそれに抗えない。後孔を弄られながら、ブラックドッグは腰を揺らして自身のペニスに刺激を与える。浅ましく思われていようが関係ない。どうせ奴隷、山の民、獣だと軽んじられている。  普段辛辣な言葉を浴びせてくるアレウスは、無言だった。何も言わず、ブラックドッグの中を開く。ただ静かな呼吸の音が、筋肉の隆起した、傷痕ばかりの背中に落ちてくる。 「ぁ、あ……うぅ、っ」  おかしなのはそれだけでなく。ずりずりとシーツに性器を擦りつけながら、ブラックドッグは自身の身体の異変に気づいていた。  身体の中が、つまりアレウスの指が進む尻の奥が、熱い。熱いばかりでなく、痒い。濡れた中の粘膜が自身のものではないように蠢き、脈打ち、異物に絡みつく。  そして彼の指が腸壁の一点を過ぎるたびに、じんじんと甘く穿つような快感が下腹を満たし、ペニスの先まで痺れが走る。  忌々しい感覚――どう考えても、部屋へ来る前に飲ませられた薬の効果だ。ユリアトゥスという客人の仕業だ。  そのユリアトゥスは露台の長椅子に寛いで外の涼しい風を受けながら、自身の快楽に耽っていた。寝台で行為に及ぶ剣闘士たちを見物し、自身の衣服を寛げて自慰をしている。  痴態を見られている。ユリアトゥスだけでなく、主人であるスプリウスや、彼の妻、彼らの奴隷たちや、衛兵にも。静かな部屋に響く水音や、殺しきれない低い喘ぎも、聞かれている。  だが、理性はほとんど焼ききれていて、抗えない。出したい。もっと強い快感が欲しい。周囲の人間など、どうでもいい。 「っあ、ぁ……」  ぬる、と体内から指が出ていく。血は見たくないと言うユリアトゥスの要望で念入りに解された後孔は、よくぬかるんで受け入れる準備ができている。 「さっさと……入れろ」  シーツに顔を埋めながらくぐもった声で吐いた。アレウスからの返答はない。代わりに衣擦れの音がして、やっと腰布を解いたのだとわかった。  拡げられた穴に、ぴたりと熱い塊が触れる。ブラックドッグと同様、見世物の交尾のためだけに、薬によって強制的に高められた興奮。  声もなしに、先端が入り口を推し拡げて入ってくる。 「ン゛っ、――!」  苦しい。しかし丹念に慣らしたために痛くはない。太い亀頭が埋まり、ずるずると濡れた肉壁を擦る。 「は、ァ……ッ?」  何だこれは。ブラックドッグは奥歯を噛み締める。声が漏れ出てしまわぬよう。  ぐちゅ、ぐちゅ、大きさを慣らすように緩慢な動作でアレウスは腰を前後させる。その度に、ぞわりと疼痛にも似た甘やかな感覚が下肢に広がり痺れを起こす。 「ウぅ、う……っ」  腹と寝台に圧迫されたペニスが酷く苦しく、最大まで膨らんでいるのがわかる。アレウスが腰を動かすたびに擦れてはびくりと震え、先端から先走りを漏らしてさらにシーツを汚している。  蛙のように脚を開かされた体勢で男根を捩じ込まれ揺さぶられている。苦しいのに、気持ちいい。気持ちいいが、決定的な快感には遠い。両手でシーツを硬く握って、声を殺して堪える。 「痛いのか」 「……っ、あ……?」  長く口を開かなかったアレウスの声が、震え引き攣る背中に降ってきた。 「痛く、ねえよ……このくらい、余裕、だ……っ」 「そうか。なら良かった」 「ああ? 何が良いんだ、クソ」 「この調子じゃ客人も退屈するだろう。お前も瀕死の豚のような声しか上げないしな。激しくするぞ」 「激しく、て……っひ、あア゛っ!?」  抜け出る直前まで引いたペニスが、ばちゅ、と最奥まで一息に貫いた。その衝撃に、ブラックドッグは一瞬呼吸を忘れる。 「っ急に、何しや、が……、あ、ア゛、ぅあ、ッ!」 「協力しろ、ブラックドッグ」  激しい抽挿。濡れた肌と肌が打ち合う音が、部屋中に響き渡るのが、酷く居心地悪い。それ以上に、自身の喉から漏れる堪えきれない喘鳴を聞いて、頭の奥がかっと熱くなる。  アレウスはブラックドッグの項を押さえながら、荒々しく腰を振っている。肉壁を掘削する怒張は硬く、熱く、絡みつく粘膜に溶けてしまいそうだった。  背後から荒い吐息が背に落ちる。ただ男が射精に至るためだけの、独善的で乱暴な腰遣い。  だが、ブラックドッグの射精欲は意思と関係なく高まっていく。熟れきった中を何度も穿たれて、いつの間にか声もなく達していた。尿管を走る熱い迸りに上肢を震わせ、身体の下で圧迫されたペニスから白濁が溢れ出る。  少しして身体の中のアレウスのペニスがぶるりと震え、内側がどろりと濡れる感覚を覚えた。項をぐっと強く押さえられ、低い呻きが落ちてくる。腰を突き出して精液を出し切ろうとしているのがわかる。 「ん、…はぁ、あ……中に、出しやがった……」 「っ……待て、まだだ、ブラックドッグ」 「何だよ……、おい」  絶頂に達して熱を解放した筈のアレウスのペニスの存在感が、消えていない。太い幹周りは、腫れぼったく熱を持つ入り口を最大まで押し拡げたまま、亀頭の硬さや浮き出る血管の形まで、いまだブラックドッグの身体に植えつけようとしている。 「もう、十分、見せただろ……!」  これ以上、堪えられるか。強引に性感を高められ、薬で抵抗力も奪われ、嫌悪する相手に犯され、強制的に絶頂に導かれている。報酬を約束された剣闘試合のために、良い趣味を持つ高貴な客人のため、最大の譲歩をした。まだ続けるというのか。 「付き合ってられねえ……、ひとりでマス掻いて、変態野郎の竿でもしゃぶってろよ」  痰の絡む声で悪態を吐きながら、今は女子供ほどの力しか発揮できない腕に持てるだけの力を込め、強引に犯されないよう寝台をずり上がる。ずるり、と重たいペニスが尻から抜け出て、何とか身体は反転させられる。  はーっ、はーっ、と荒く胸を喘がせ、肘を突いてブラックドッグはアレウスを仰ぎ睨んだ。そして、息を詰まらせた。 「ッ……」  見下ろす湖畔色の瞳が、情欲と水気の膜に濡れている。ブラックドッグとは正反対の白い肌が上気して染まった薄紅色は、言葉を失うほど扇情的だった。なのに、湿った視線は酷く雄々しく、わずかな威圧感を纏い、反抗しようとするブラックドッグの身体を押さえつける。視線を腰元に落とすと、射精したばかりだというのに既に大きく膨張し屹立するペニスが、腸液と精液に濡れて光っていた。大きさは自身とほとんど変わらないそれが、恐ろしく凶悪なものに見えた。  ぽたり、と乱れた金糸を伝って汗が腹に落ち、ブラックドッグ自身が放った精液と混ざり合う。 「貴様も、まだ収まってないだろう」 「……!」  精液と先走りでぐちゃぐちゃになったペニスを、ぐっと握り込まれる。確かにそこは、再び興奮を示して勃起していた。 「収まってなくても、終わりだ」 「まだだ」 「てめ、……っ」  汗とそれ以外の液体に濡れた手で、両の足首を掴まれ、大きく開脚させられた。  熱く上気し汗に濡れた全身が、発火したかのようにさらに熱くなる。項と頭皮の汗腺が開き、どっと汗が噴き出るのがわかる。 「見るな……」  厚く筋肉のついた褐色の脚の間に、冷ややかで、けれど熱い視線が注がれている。どろりと、栓のなくなった窄まりから男の精液が溢れ出る感覚。何度も出し入れされたそこは腫れぼったく熱を持ち、向けられた視線に反応して収縮する。 「そうだ、まだ終わっていないぞ、山の民。まだ続けられるだろう? 私が満足するまでだ」  ユリアトゥスの陶酔に落ちた声が聞こえてくる。だがブラックドッグの視覚は、上から見下ろす金糸の男に囚われている。  彼の凄絶な色香と、すべてを暴く強烈な視線が、ブラックドッグの動きを封じる。  訓練場の砂の上で彼と対峙して刃を交えても、引けを感じて臆することは決してない。捩じ伏せるつもりで、向かうことができる。  だが今この瞬間は、飲まれていた。 「やめ、……あ、――ッ!」  ずぶずぶと熟れた肉の間に侵入し、容赦ない長大さで狭い道を切り開いて奥まで進む。ぞくぞくと足裏から膝の裏を、膝の裏から背筋を伝って項まで、得体の知れない瘧のような悦楽が這い上がる。  はあ、と恍惚とした吐息が落ちてくるが、涙に霞む視界ではぼんやりとした輪郭しかわからなくなっていた。 「ン、ぉ、あ゛…っ、ア……ッ」 「う、っ……すごいな」 「あゥ、う……何、あ……ッ奥、……あつ、い……!」 「っ……酷い顔をしてるぞ、ブラックドッグ。涎を垂らし、本当に獣のようだ」  膝が胸につくほど脚を折り畳まれ、ぐっと掘削が深くなる。ばちゅ、ばちゅ、と勢いよく穿たれ、訳がわからなくなるほどの快楽に、すでに思考は放棄していた。アレウスが荒い息づかいの間に何か口走っているが、意味は理解できない。 「ア゛ッ、……ウ、う、おかしい、変、だ……っ」 「何がおかしい? 俺と貴様がまぐわっていることか?」 「ひ、ァ、や、……あ゛」 「これは、……今夜限りの見世物だ。終われば、大きな闘技会が待ってる。そこで……」  どく、どく、とブラックドッグは声もなく達した。赤黒い亀頭も、褐色の竿もしとどに濡れ、力なくくたりと萎れる。しかし止まない掘削の衝撃に揺れて、尿道に残る精液が飛び散って筋肉に盛り上がる胸まで濡らす。全身は汗でびしょ濡れで、香油の華やかな匂いと混じって淫らな匂いが立ち上がる。  意識は薄れつつあった。瞼が閉じる前、霞む視界の中で、自分を見下ろすアレウスの、眉間を寄せて瞼を伏せ、快楽に没頭する余裕を失った表情が見えた。日中手合わせの折りでも、澄ました顔しか見せないくせに、俺の上で必死に腰を振って、間抜けな面をしやがる――少しだけ、気分が良い。

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