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00.prologue(2)

 *  *  *    頭上に浮かぶ天窓から、白み始めたばかりの空が見える。  最近変わったことがあったかと言えば、王宮騎士団への入団が決まった際、潜在能力の鑑定と解放の儀式を受けたことくらいだ。  だけどそれは一月も前のことで、昨日まではジーク自身にも周囲にも何の変化も見られなかった。 「ああ、これは……何か余計な血まで起こしてしまったかな……」 「余計な血?」  ひとまず現寮長を務めるカイの元に駆け込んだジークは、すぐさまその足で医務室に行くよう指示された。  カイもそれに付き合ってはくれたが、やはりジークに対する態度は昨日までと違い、極力距離を取るよう部屋の隅に身を寄せて、あまつさえ鼻と口を手布できっちり押さえている始末だ。 (そんなに俺は匂うんだろうか……)  だとしたらショックだ。それならそれで、先に湯浴みでもしてくるべきだったかもしれない。  ジークは気まずいような恥ずかしいような気分で、診察台の上に横になっていた。 「ええとですね」  そんなジークの傍らに立ち、額や身体へと手を翳していた男が、瞑目したまま改めて説明を始める。 「あなたの血には、魔法使いの血が入っていたので、その力だけ目覚めるきっかけを与えたつもりだったんですけど……」 「それは儀式の時に聞きました」 「はい。それがですね……その時にどうやら、ほんの少しだけ混ざっていた、別の血まで目覚めさせてしまったみたいで……」 「別の血」  言われている意味が理解できず、ジークはぱちりと瞬いた。 「うーん、しかもこの放出速度……」 「先生?」 「サシャ?」  ややして顔を曇らせた男に、カイも横から口を出す。〝サシャ〟と〝先生〟は同じ男を指している。 「急いだ方がいいかもしれません」  サシャは静かに手を下ろし、ふう、と一つ吐息した後、 「すみません、僕の手には負えません」  ひどく申し訳なさそうに頭を下げた。 「ええ?!」 「どういうことだ?」  口を押さえるのも忘れて、身を乗り出したカイに、サシャは小さく首を振る。 「お前の魔法(ちから)でもどうにもならないのか? お前が解放した潜在能力なんだろう?」 「せ、先生も魔法使いなんですよね? しかも結構力のある方だって聞いて……」  カイにつられるように、ジークも身体を起こしてサシャを見る。  しかしサシャは依然として首を横に振り、 「僕の力ではもって一日、それも本当にその場しのぎの処置しかできません。なので、これからすぐに、外に治療に行ってもらうことになります」 「外に?」 「はい。できれば用意ができ次第――すぐにでも出発させてください。そうすれば夜までにはたどり着けると思います」  と、一旦ジークに目を遣ってから、再びカイを見てそう告げた。 「〝翡翠の森〟と呼ばれるところに、腕利きの魔法使いがいます。彼なら何か良い方法を知っているのではないかと……少なくとも僕よりはこの手の症状に詳しいはずですから」 「翡翠の森……」  サシャの提案を聞き、何かを思い出すように呟いたカイは、口許を押さえながら僅かに眉をひそめた。  そんなカイの反応に、より不安になるジークだったが、その時はもう、とにかくサシャの言葉に従うよりほかなかった。

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