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♥05.昨日の記憶(1)

「ん……」  寝返りを打つと、固めのベッドが微かに軋む音がした。  意識は夢現を行ったり来たりで、まぶたはまだ重く閉じられたままだ。 「おはようございます」  そこにふと落ちてきたのは、どこか鳥が囀るかのような不思議な印象の声だった。  続いて、ベッドサイドのテーブルに、ガラスの水差しとグラスを置く音がする。 「目が覚めたなら、(これ)。一口でもいいから飲んで下さいね」  続けてかけられた声に、伏せられている睫毛がぴくりと震える。ジークの意識が、ゆっくりと浮上した。  軽く眉間にしわを寄せながら目を開けると、傍に立っていた青い髪の青年が、気遣うようににこりと微笑みかけてくる。  まるで見覚えのない相手だったが、不思議と警戒心は抱かなかった。 「気分はどうですか? まだ身体が重いとかあります?」  身体を起こしたジークの肩に、紺色のストールを掛け、青年はジークの額に手を当てた。  その瞬間、何かがフラッシュバックしたような気がして、ジークはびくりと身を竦ませた。  *  *  *  昨夜――アンリがジークに触れた時、ジークの意識は完全に消失していた。  けれども、そんな意識がない状態でも、まるで別の何かに乗っ取られたように身体は反応したのだ。  うわ言と言うにはひどく艶めかしい吐息と嬌声が漏れて、それはすぐさま眠りに落ちてしまったリュシーの記憶にすら残るほどだった。  アンリははぎ取ったジークの服を床に落とすと、一方でひらりと片手を翻す。するとその手の中に、薄桃色の液体の入った小さな小瓶が現れた。  指先で瓶の蓋を開け、ゆっくりと傾ける。しっとりと湿り気を帯びたジークの身体にそれを垂らせば、見た目よりも粘度のあるそれがゆっくりと広がっていく。 「んんっ……ぁ、あ……っ」  たったそれだけの刺激にも、ジークの身体は小刻みに震えてしまう。  ジークは堪らないように自らの手を下腹部に伸ばし、痛々しいほどに張り詰めたそれに指を絡めた。  纏い付く桃色の液体の影響もあるのか、その手が軽く擦るだけで、とろとろとあふれ出る液体に白みが混じる。かと思うと、少量ながらもすぐさま飛沫が飛び散った。  その痴態にアンリは目を細め、 「そろそろ気付け……」  何度出しても同じだということに。  言外に匂わせ、空になった瓶を床に転がすと、その手でジークの片脚を立たせ、大きく開かせた。  あらわになったそこが、外気に晒されひくりと収縮する。  粘液を塗り込むようにしながら、谷間を辿る指が、間もなく触れた窪みをゆるゆると撫でる。ジークの腰が、強請るように揺れた。 「んぁ……っ、あ、ぁ、もっと……っ」  もっとちゃんと触れて。もっと奥まで触れて。  早く。早く。もうこれ以上、我慢できないから――。  そう縋るようにアンリの服を強く握り、唇を戦慄かせるさまは、およそ普段のジークからは想像もできないほど情欲的なものだった。 (……)  茫洋とした意識のなか、ジークの瞼がうっすらと開く。けれども、その瞳には何も映っていない。ただその縁からぼろぼろと涙がこぼれ落ちるだけで、その焦点はどこにも合っていなかった。  アンリは観察するようにその姿態を眺めながら、ひとまず請われるままに指先を中へと埋めた。

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