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♥10.意識がある中で(3)
「あ、あの……っすみませ……」
ただそこに立っているだけで、触れてもいないのに張り詰めていくそれを知られるのが恥ずかしい。
なのにジークは、一歩たりともそこから退くことが出来ない。
依然として足元はおぼつかないし、どころか、いっそう腰が抜けたみたいに身体に力が入らなくなっている。アンリの支えがなければ、とっくに床へと崩れ落ちていただろう。
そのくせ、身の内を焦がすような熱に煽られるまま、唇は戦慄き、腰は勝手に揺らめいてしまうのだ。
「あ、な……何で……っ」
窮屈に抑え込まれたままの下腹部が、布地に擦れるだけで弾けそうになる。
堪え難い羞恥と混乱に、顔は火照り、目の際からは一筋の涙がこぼれ落ちた。
「ぃ……っ、ぁ、――!」
刹那、間近のアンリの肩口に顔を押し付けるようにして、身体を震わせてしまう。
服の中で、先端から熱い|飛沫《ひまつ》が溢れたのが分かった。
「あ……、……す、すみ、ません……」
遣る瀬なすぎて、すぐには顔を上げられない。
どうして急にこんなふうになってしまったのか……。分からないまま、記憶の奥底でふわりと澱が舞う。
(あ……これ、昨日と……似て……?)
ふわふわとした余韻の中で、不意にリュシーとの会話を思い出す。
自分がここに来た経緯。森の中に踏み入ったとたん、その身に起こった理解しがたい感覚と変化――。
思い返すと、頭の芯がジンと痺れる。
確かにここまではよく似ている。
このまま飲まれてしまえば、それこそ同じ状況になるのだろう。昼間、リュシーの前で倒れたときと同様に。
突然身体が発情し、それを全く制御 できない。やがて自分が自分でないような感覚に陥り、平素の思考は切り離される。羞恥心と理性を完全に手放せば、後はただ血の欲求に支配されるだけ――。
そしてそうなった場合、ジークにその時の記憶は残らない。
だが、それはあくまでもジークが正気を失った時の話で、今回はそこまでには至っていない。
少なくとも現時点でのジークにはまだ思考力が残っているし、流されそうになったとは言え理性も繋ぎ止められている。羞恥心だって持ち合わせたままだし、何よりその湧き上がるような欲求に抗おうと必死だ。
けれども、その相違点 を本人 はまだ知らない。
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