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♥10.意識がある中で(6)
ジークの屹立に手を添えながら、アンリはジークの顔を悠然と見下ろす。
わけもわからないまま、ジークはただ羞恥に身を竦め、アンリの落とした影の中で、その絡め取るような眼差しを見詰め返すことしかできない。
「いいか」
アンリはおもむろに顔を近づける。
すると条件反射のように、ジークの唇が僅かに浮いた。できた隙間から熱っぽい呼気が漏れる。
けれども、アンリはそれが触れ合う寸前で動きを止めて、口付けの代わりのように囁きを落とした。
「これは治療だ」
その言葉は、呪文のようにジークを束縛する。
低く平板なその声は、そのくせひどく艶っぽくも聞こえ、怖いくらいにジークの官能を刺激する。
ジークは束の間瞠目し、それから堪えるように目を閉じた。
「このまま放置されたくはないだろう……?」
アンリの吐息が耳にかかる。かと思うと、耳殻に沿って舌が這う。頭の中に直接注ぎ込まれるような息づかいと水音が、妙に生々しく鼓膜を震わせる。
視界を閉ざしたばかりに、いっそう全てが際立って、ジークは知らずごくりと喉を鳴らした。
「そ……っ、それは……」
「どうして欲しいか言ってみろ」
ジークはおずおずと目を開ける。水膜に滲んだ視界の端に、さらりと流れる|朱銀《アンリ》の髪が茫洋と映る。
微かに戦慄く唇から、言葉はすぐには出てこない。出てこないものの、身体が欲しているものは嫌でも察しがついていた。
とにかく今は、この性的欲求を満たしたい――。
どうしてそんなことになっているのかは分からないし、できれば認めたくもないけれど、自身の反応から見てもそれは紛れもない事実だった。
ジークは半ば無意識に片手を下肢へと伸ばし、自身に触れたままのアンリの手の上に、自らのそれをそっと重ねた。
「……だ、出したい」
「違うな」
けれども、意を決して告げた言葉は冗談みたいに一蹴された。
ジークは信じがたいように目を瞠り、「そんなはずない」と小さく首を振った。
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