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♥10.意識がある中で(9)

「ふ……っぁ……」  ジークの口から上擦った吐息が漏れる。抜き去られた指を追うように、腰が勝手に揺らめいた。  ほっとすべきところなのに、もどかしい喪失感が否めない。例えるなら、自分の中にもう一人、別の自分がいるようで、そんな感覚(矛盾)に頭がいっそう混乱する。 「出したい、というだけなら、これで終わりだ」  うつろなジークの双眸を、アンリの冷ややかな瞳が見下ろしていた。  ジークの視界に遅れて輪郭が戻る。努めて視軸をアンリに合わせると、ごくりと勝手に喉が鳴った。 「お……終わり……?」 「お前の望みはここまでだっただろう」 「俺……の、のぞ……」  喉が渇いているせいだろうか。思うように声が出ない。 「私は優しいからな。お前の言葉にはちゃんと従ってやる。……これで満足したのだろう?」  水を向けられ、ジークは一瞬押し黙る。  確かに「出したい」と言ったのは自分だ。だってそれ以外にないと思ったから。出してしまえば、全てが普通に解消されると思っていた。  だけど、実際には何一つ満たされたようには思えなかった。どころか、その欲求はより強くなった気がする。  出した直後だと言うのに、頭は一向に冴えていかない。身体から熱が引かない。萎えることなく張り詰めたままのそれが、ますます嵩を増してそそり立つ。  反動のように渇望しているそれを、その答えを、ジークはまだ掴めなかった。掴めなかったが、 「満、足……。――じゃ、ない場合は、どうしたら……?」  ジークにはもうそう答えるしかなかった。  その縋るような声音は、ひときわ甘く誘うような色を帯びていた。

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