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♥11.求めたその先(3)

「……っふ、……ぁ、あ……っ」  それが自分の声だなんて思いたくない。  手放しきれない理性が、いっそう羞恥を煽り立てる。隠れたいみたいに、顔の前のクッションにしがみついた。 「や……っ、やっぱり――」  身体は言うことを聞かないけれど、口だけならまだ自由がきく。  ジークは肩越しに小さく振り返り、窺うようにアンリへと目を向けた。 「……!」  その瞬間、ジークは僅かに目を瞠る。  流れおちたアンリの長い朱銀の髪の隙間から、伏し目がちのアンリの表情が垣間見えた。思ったよりもずっと上気して見えるその面持ちに、不意打ちのように鼓動が高鳴る。  どこまでも冷静で、冷淡で、禁欲的で――。  ジークにとってはそんな印象が強かったため、余計に衝撃を受けたのかもしれない。  悩ましく揺れる――そう見える――眼差しは自分に欲情しているようでもあり、優しく触れる――そう感じる――手つきは、ともすれば自分を心から労ってくれているようだ。  そう思ったとたん、ジークは胸の奥がきゅんと締め付けられるのを感じた。  身体の温度が上がるにつれて、アンリの体液が肌に馴染むにつれて、呼応するように胎内(なか)がせつなく疼く。 (……俺)  次の瞬間、ジークは妙な錯覚に陥っていた。 (俺……この人が嫌なわけじゃない……?)  同時に頭を過ぎったのは、先刻、ギルベルトに組み敷かれた時のことだった。  あの時は酷く驚いたのもあるが、心底嫌だと思ったのだ。今にも貫かれそうになっていたことに、これまでにないほどの恐怖と嫌悪を覚えた。  身体の方は確かに、それを欲していたにもかかわらず――。 (いや、でもそれは……ギルベルト(あの人)よりは、ってだけ……なのか?)  唐突に降ってわいたような感情に、頭の中が混乱する。

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