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♥11.求めたその先(4)

 実際、その高揚感はジークとアンリ(双方)の淫魔の血がもたらしている効果でもあったのだが、ジークはまだその事実(こと)を知らない。そのため、自分の身に――心身ともに――起こる変化に戸惑いながらも、ただ目の前の現実から答えを導き出すしかなかった。 (わからない……。でも、だからってやっぱりこんなことは――) 「やっぱり、なんだ。その先を言ってみろ」  呆然としながら再びクッションに顔を伏せたジークを見遣って、アンリは密やかに口端を引き上げる。 「あの、もう少し……せめて、心の準備を――」  他に言葉もなく、そんな風に答える自分を、まるで生娘のようだと思いながら、それでもジークは初々しいように顔を上げられない。  先ほどまでとは少しだけ質の違う気恥ずかしさが気持ちを委縮させて、ゆるりと首を横に振るだけで精一杯だった。 「心の準備か……」  呟くように落とされたアンリの声は、思ったよりも優しかった。そのことに思った以上にほっとして、ジークは控えめながらも「はい」と頷く。  心の準備と言いながら、そんなもの、いくら待ってもらったところでできる自信はない。それでも、やっぱり自分が受け入れる側だという状況が飲み込めず、足掻いてしまう。  こんなことならまだ一度目? のように完全に意識がない方がいい。  どうにかして、今からでもそんな状態になれないだろうか。  ――ああ、そうだ。この中途半端な状況を、例の薬がもたらしているというなら、その効果が切れるまで堪えさえすれば――。 「あ、あの……っ」  辿り着いた一筋の光に、手を伸ばそうとした時だった。 「私はそれほど暇ではない」 「えっ……ぁ、っ――!!」  その瞬間、アンリはそんなジークの胸中を読んだかのように、その身を一気に貫いた。

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