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【閑話】お菓子をあげるから/ラファ×ギル(2)
知り合いの魔法使いが時折作る、特製の菓子。
あのアンリも好んで食べているらしい、店頭に並ぶと必ず売り切れてしまうそれを、僕は久々に手配したのだ。
この口も態度も目付きも悪い、たった一人の男のために。
「俺のためって、それはお前が勝手に……」
「勝手に用意したのは確かですけど。でもそれをあなた、あんなに美味しそうに食べておいて……しかも全部。それでなくなったらすぐ帰ろうだなんてあんまりじゃないですか」
そう、それはもう想像以上に嬉しそうに食べてくれた。
だけど問題はその後だ。さすがに「あー食った。ごちそーさん。じゃあな」はないでしょう。
「ねぇ? あなたもそう思いませんか?」
彼の唇に指先で触れると、あからさまにふいと顔を背けられる。
「そ……んなの、俺の勝手だろうが」
「……へぇ、そうですか」
僕は手を|退《ひ》き、ベッドサイドに座り直すと、サイドテーブルに置いていた紅茶を一口飲んだ。
「じゃあ、僕も勝手にします。ちょうどいい口実もありますしね」
「口実?」
「ええ。……あなたは知らないかもしれませんが……」
「……?」
「お菓子を――」
「お菓子?」
「ええと……何だったかな」
「はぁ?!」
「あ、そうそう。思い出しました」
次いでそう告げた声と、カップをソーサーに戻す音が重なって――。
「今日はね。お菓子をあげると、その相手にイタズラできる日なんだそうです」
おもむろに笑顔で振り返ると、一瞬怯んだような色を見せた彼の上に、僕は跨がるようにしてのし掛かった。
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