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15.霧の中で(2)

「どうぞ」  笑顔で小瓶を差し出される。「あ、ありがとうございます」と、ジークは呆気にとられながらも、それを素直に受け取った。四つん這い状態のまま――。 「あっ、すみません」  そんな自分の格好に遅れて気付き、ジークは慌てて身体を起こした。そのまま草の上に正座して、 「え、えっと……あなたは」  改めてそのそこはかとなく神聖な雰囲気を纏っている男の姿を見つめた。  その姿は確かに記憶にあるのだ。ところどころ霞んでいる感じもするけれど、絶対にどこかで会ったことがある。  ……でも、いったいいつ、どこで……? 「あぁ、失礼しました。僕はラファエルです。あなたは……アンリのところにいた方ですね」 「え」  頭の中で記憶を辿っていると、不意にパズルがぴたりとはまった。  アンリのところ。  そうだ。自分が|この森《ここ》に来たばかりのころ、|アンリ《先生》の家で――。  ジークは瞬き、確かめるように呟いた。 「窓を壊した、……」 「……あぁ、そうでしたね。あの時はすみませんでした」 「あ、いえ、じゃなくてっ……すみません、俺、助けていただいたのに……!」 「助けた?」  今度はラファエルが瞬く番だった。僅かに視線を上向け、考えるような仕草をする。  当然と言えば当然かもしれない。  あの時のラファエルには、特にジークを助けようという意識があったわけではない。  ラファエルはただ、ギルベルトが自分以外の誰かと、というのが気に入らなくて、それを阻止したにすぎなかった。  ……かと言って、もちろんそんな余計なことは口にはしない。 「あ――いえいえ。あの時は災難でしたね。僕には状況がいまいち飲み込めませんでしたが……」 「あ、はい……。実は俺も……いまだによく分かってなくて」  そうなんですか……? それはそれでどうなんですか?  にわかにラファエルの顔にはそう浮かんだけれど、はにかむように視線を落としたジークは気付かない。

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