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15.霧の中で(3)

(あ、でもそういえば……)  しばし気恥しそうに視線を落としたままだったジークは、けれどもそこではっとする。  あの日――正しくはあの直後のことを更に思い出したからだ。  あの時、ラファエルは間一髪(ギリギリアウトとも言えるが)のところでジークからギルベルトを引き剥がしてくれた。  普通ならそこで感謝して終わるところだが……よく考えたら引き剥がす前にこの男は何かしていなかったか? (|襲ってきた《あの》人に……キス? してたような……)  しかもその後だって……。 (え……。ラファエルさん、あの後あの人……と……?)  ジークが無事抜け出した後のベッドに、押し倒されていたのは|ギルベルト《暴漢》の方だった。そして|ギルベルトの《押し倒された》方も、まもなくしっかりと反応を見せていたような――。  え……本当に……? (いや、俺、何考えて……)  妙に記憶が鮮明になり、思考がそちらに引っ張られそうになる。 (どのみち、そんなこと聞けないし……っ)  慌てて全てを振り払うよう、ジークはぶんぶんと頭を振った。 「どうかしましたか?」 「あっ、いえ! すみません!」  必要以上に大きな声が出た。  弾かれたように上げた顔が、気遣わしげな眼差しを受けてぽんと赤くなる。 (こんな親切な方に……俺は何を)  実際には、あれ以上は何もなかったかもしれないし。  部屋を出た後はアンリが気配を消す魔法をかけてしまったので、特に何が聞こえたわけでもない。なので当然確証があるわけではないのだ。 (申し訳ない……)  こんなにも清廉そうな方を前に、不埒な想像をしてしまって。  思わず頭を下げたジークに、ラファエルは小さく瞬くと、 「別に謝る必要はありませんけど……」  と、くすりと笑うような吐息を漏らした。

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