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15.霧の中で(4)
「それで、今は何をしているんです? えっと……」
「あ、すみません。ジークです。ジークリードといいます。……えっと、今……今日は、先生……アンリさんの、おつかいで」
「おつかい? こんなところで?」
「はい、これを……この花の蜜を、助手? の、リュシーさんと集めていたんですけど……」
「はぐれたんですか」
「は、はい……」
リュシーっていうと……あの青い髪の|青年《彼》のことか。アンリの家に住んでいる、青い鳥の――。
何気なく思い出しながら頷くと、ラファエルは改めてジークを見下ろした。
「……しばらく、一緒にいましょうか」
「えっ……」
「霧が晴れるまで。多分あなたよりはこの森にも慣れているので」
辺りを軽く一望しながら言うラファエルに、ジークは目を上げ、背筋を伸ばした。
けれども、数秒後にはふるふると首を振る。
「い、いえ、大丈夫です、俺一人で……。リュシーさんが来るまで、じっとしていればいいだけなので」
「そうですか」
特に食い下がるでもなくにこりと微笑み、ラファエルは不意に片手を差し出した。
「じゃあ、僕は行きますけど……」
「え……?」
「とりあえず、そのままでは服、濡れてしまいますよ」
「あっ」
そうだった。
さっき尻が濡れてしまったと反省したばかりなのに。
ジークは急くように立ち上がろうとした。
けれども、そこで不意にめまいのようなものを感じてしまい、浮かせた腰が再びぺたんと地面に落ちてしまう。何だか足にも上手く力が入らない。
ずっと座っていたせいで、立ちくらみでも起こしたのだろうか。座り方のせいで、足が痺れてしまったのか……?
「……!」
そう思っていた矢先、それを否定するかのように、身体の奥がじんと疼いた。
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