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15.霧の中で(5)
そういえば、アンリからの説明にあった〝通常ならひと月後〟はもう過ぎている。
だけど薬は? 薬が効いていれば、発情はしないのでは……。
いや、でもその薬は、今朝から変わっている。
ということは、変更後の薬ではだめだったということなのか?
だとしたら、そもそもなぜアンリは薬を変えたばかりでジークに外出許可を出したのか。
あの《《優秀》》な《《先生》》が、こうなることを予見していなかったとは思えない。
……わからない。わからないけど、多分これは……覚えのあるこの兆候は――。
「? どうしました?」
「あ、いえ……えっと」
ジークは努めて答えながらも、じわじわと上昇していく体温に気を取られ、先の言葉が出てこない。
そうしているうち、ふわりと甘い香りが漂い始める。
「……大丈夫ですか?」
「は、はい……」
辛うじて頷きはするものの、一方で鼓動はどんどん早くなり、全身の肌という肌が火照っていく。双眸には早くも生理的な涙が滲み、それを隠すように俯くと、ジークは胸元で両手を握り込みながら、再度ふるりと首を振った。
「行って、ください……大丈夫ですので」
下腹部に血が集まってくる。布地の下で、その嵩が増していく。
それだけならまだしも、ジークの身体は既に欲しがり始めていた。
誰でもいい。誰でもいいから、|胎内《なか》に注いでほしい――。
そんなこと考えたくもないのに、腰が勝手に揺らめいてしまいそうになる。
「お願いします……っ。もう、行ってください……!」
ジークから立ち上る香りが強くなる。
けれども、幸いというべきか、ラファエルはそれに気づいていない。
天使という種族がら、淫魔の発情にあてられにくいという特性があるのだ。
「……でも……」
とはいえ、見るからに様子のおかしくなったジークを前に、ラファエルもなかなかその場を去れない。
ラファエルはしばしの逡巡の末、ジークの肩にそっと触れた。
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