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15.霧の中で(6)
「っ!」
びくり、とジークの身体が強ばる。それに合わせて、首元の鈴も小さく跳ねた。
そんな過剰な反応に、驚いたラファエルも思わずその顔を覗き込んでしまう。
「本当に、大丈――、!」
言われるが早いか、ジークは持っていた小瓶が落ちるのも構わず腕を伸ばした。かと思えば、近まったラファエルの胸倉を掴んでその身を引き寄せ、次には噛みつくようにキスをする。
「は……んっ、んん……っ」
ラファエルの唇に強請るみたいに舌を這わせる。開けて欲しいと歯列をなぞる。
けれども、それにラファエルが応えてくれることはなく、
「待っ……待って下さい。ほら、しっかりして」
それどころか、すぐさま冷静に肩を押し返され、ひたひたとその頬を軽くたたかれた。
「あ……あ、お、俺……っ。す、すみません!」
ラファエルの優しい声とその仕草に、束の間我に返ったジークは、ますます顔を紅潮させながらも何とか謝罪する。
呼吸はいまだ忙しないままだが、相手が|純血の天使《ラファエル》だからだろうか、少しばかり発情の波が穏やかになった気がしないでもない。
……と、思った矢先、
「……?」
どこからともなく、鼻歌のような音が聞こえてきた。
その微妙にずれた旋律は次第に鮮明になり、ラファエルとジークは釣られるように頭上に目を遣った。
「げっ!! なんでお前が!」
次いで降ってきたのは、そんな品のない声だった。
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