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15.霧の中で(10)
「話が違うから焦ったぜ」
「話……?」
「いや、出さなくても普通に飛ぶんじゃねぇかって」
その言葉に、一気に記憶が鮮明になる。
それはアンタが色々と規格外だったからだよ……!
言ってやりたかったけれど、負け惜しみのようにも思えてリュシーは忌々しげに口を噤んだ。
「……!」
そこにまた鈴の音が響く。
はっとしたリュシーは、急くように上体を起こした。
頭がぶつかりそうになるのをロイが避けると、そのまま立ち上が――ろうとして、ふらりとよろめいてしまう。
「おっと。大丈夫か」
ロイがその身をすぐに支える。
リュシーは小さく舌打ちしながらも、それを振りほどくことはできなかった。
足腰に上手く力が入らない。
どうにもならないというほどではないけれど、いつも通りに動けるまでには時間がかかりそうだ。
(あぁ、もう……っ)
顔を上げたリュシーは、ロイの手を借りつつも辺りを見渡した。
「どれくらい寝てました?」
「ほんの数分だよ」
「そうですか」
完全に眠りに落ちてしまうと、やがて身体は鳥の姿に戻ってしまう。せめてそうなる前に目覚められたのは良かったけれど……。
ふらつきながらも歩き出そうとするリュシーに、ロイが声をかける。
「おい、どこに」
「坊ちゃんのところですよ!」
リュシーは吐き捨てるように答えた。
鈴の音はずっと聞こえている。
大丈夫、まだちゃんと近くにいる。
ただ……。
――なんでそんなにうるさいくらいリンリン鳴ってんだよ! 鈴!!
ジークの身に何か起こっているのだろうことは容易に想像がついた。
「あー、何かずっと鳴ってるもんな。時々あの時みたいな匂いもするし……」
「あの時みたいな匂い?」
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