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15.霧の中で(13)

「誰がきれいにしてやったと思ってんだ?」 「………………」  制約のせいで吐精はできないが、濡れないわけじゃない。  ロイのそれだって、どれだけ奥深くに出されたところで、栓が抜ければこぼれてくるだろう。……量が量だったこともあるし。  だけどその違和感が一切残っていない。衣服が張り付くような不快感もない。 (まさか……)  ロイが手ずから掻き出した?  そして汚れていた肌は全て……。  アンリにはいつもことが終われば放置されていた。  だからジークの世話といい、事後の処理には慣れていたのだ。  それを……それを。  いや、確かにロイは狼だけど……。  リュシーは振り払うように頭を振った。 (…………無理)  それ以上は認めたくなくて、想像すらしたくなくて、話を変えた。 「……そろそろ下ろしてください。鈴の音が近い」 「え?」 (|ジーク《あいつ》にこんなとこ見られるわけにいかねぇし)  正常な意識が残っているかはわからないが、もし残っていたらどう思われるかわからない。思うだけならまだしも、彼のことだから純粋に何があったんですかと心配してくる可能性だってある。そんな面倒なことになるのはごめんだ。  だからそうならないためにも、まだ人影が見えないうちに何とか自力で――。 「ほんとに大丈夫なのか」 「いいから下ろしてください」  リュシーがさっさと足を下ろそうとしても、ロイはなかなかその腕を緩めようとしない。 「早く……!」  声を潜めながらも急かすように言うと、ようやく渋々ながらもロイは身を屈めてくれた。  リュシーの両足が地面に着く。  と、そこに聞こえて来たのは、 「――懲りない人ですね」  そんな滑らかで耳障りの良い――と同時に、妙に威圧感のある声だった。

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