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16.呼ばれたから(2)

「……お前か」 「いや、他にもいるよ、お客さん。――とりあえず、これはここに置くな」  カヤだった。カヤはちらりと背後を一瞥してから、両手に抱えていた荷物を部屋の中央に置かれていたテーブルの上にどさりと置いた。 「客……」  アンリがそう漏らしたと同時、今度は――今度こそ廊下から顔を覗かせたのはロイだった。  *  * 「それはここに」 「……こっちは?」 「そっちはどこでもいい」 「どこでもいい?」 「どうせすぐ目を覚ますだろう」  言われてロイは僅かに目を瞠った。  アンリは肩に担がれていたジークをカウチに下ろすように言った。  同様に意識がないままの、リュシーの方はテーブルの上の空きスペースにでも置けと示した。 (すげー扱いだな)  ロイは小さく肩を竦めつつも、ひとまず言われた通りに動く。せめてもと、近くにあった手巾の上に――すっかり青い鳥の姿に戻ってしまった、その小さな身体をそっと下ろした。尻尾でひっかけていたバスケットは黙ってテーブルの下に置いた。  逆らうことも、文句の一つも言わなかったのは、単にアンリを相手にしたくなかったこともあったけれど、何となくその方がリュシーにとってもいいような気がしたからだ。できるだけリュシーが不利になるような事態(こと)にはしたくない。 「じゃあ、俺はこれで……」  続いてジークをカウチに寝かせたロイは、最後にもう一度リュシーの様子を見遣ってからアンリに向き直る。それ以上、特に何かを求めたりはしない。礼のようなものも、そして説明も。同じように、アンリもロイに経緯を訊いてきたりはしなかった。 「あ、リュシーが目を覚ましたら、礼だけ言っといて」  踵を返したロイは思い出したように小さく振り返り、肩の上で片手をひらりと動かした。すぐに目覚めるかどうかはわからねぇけど……と、心の中で呟きながら。  アンリはそれに何も応えなかったが、目を合わせてくれただけでもましかもしれないとロイは思った。

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