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16.呼ばれたから(3)

 *  * 「――じゃあ、明日また来るよ」 「今度は忘れるなよ」 「分かってる分かってる」  リュシーが眠ったままだったため、お茶の一つも出されないまま、カヤはこくこくと頷きながら部屋を出て行った。  アンリに先日頼まれた、様々な品を揃えて届けに来たカヤだったが、一つだけ自宅に忘れてきたものがあった。青い薔薇の花びらだ。  カヤは以前、とある吸血鬼からの依頼で薔薇のアトリウムを作ったことがあり、そこに咲く青い薔薇の話をアンリにしたことがあった。それを所望されていたのだ。  アンリの用意できるいくつかの材料――特に霧霞の花の蜜と掛け合わせてみたいからと。  霧霞の花の蜜がちょうど今日手に入ったのは偶然だったが、24時間しかもたないという青い薔薇がこのタイミングで届いたのならちょうどいいとアンリは思った。思ったものの、何度確認しても肝心の青い薔薇(それ)は見当たらなかった。  忘れないようにと一番目に付く窓際に置いていたのに、そのままにして来てしまったと思い出したカヤは「わーごめん」と焦ったように手を合わせた。  結果、再度アトリウムまで薔薇を取りに行き、それからまたアンリの家まで届けに来ることになったのだ。それが明日の話。 「……まったく、当てになるんだかならないんだかわからんヤツめ」  カヤが去って間もなく、アンリは呆れたように溜息をつくと、改めてカウチで眠るジークの方へと意識を向けた。  青い薔薇が明日になるならと、リュシーの持ち帰ったバスケットは一切開けられることもなく、しばらくテーブルの下に放置されることとなった。霧霞の花の蜜は、常温で一週間はもつため、そのままでも特に問題はないだろうというのがアンリの見解だった。

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