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16.呼ばれたから(5)

 *  *  *  カタンと小さな音が響いて、銀細工の鳥かごの中でとまり木が揺れた。そこから傍らのテーブルへと降り立ったのは、一匹の青い鳥――たった今目を覚ましたばかりリュシーだった。  アトリエ(部屋)の明かりは消えていた。けれども、昼間の霧が嘘のように晴れた月夜の光が窓から射し込んでいるため、室内は思いのほか明るい。 (これなら……)  リュシーは床へと飛び降りるなり、姿を人型に変えた。そして部屋の中を急くように見渡した。  リュシーには気になることがあった。  ジークが薬を飲んでまもなく眠りに落ちたことは覚えている。続いて自分まで気絶したらしいということも、結果からして想像がついた。……その二人をここまで運んでくれたのがロイだろうことも。  ただ、一つだけ分からないことがあったのだ。あの時(・・・)ロイに奪われた小瓶の行方――正しくは、あれをロイの配下が持って行ったあと、ちゃんと返してもらったのかどうかを、リュシーは覚えていなかった。  返してもらっているならそれでいい。けれども、もし今もロイが持ったままなら、面倒なことになる前に返してもらわないと……。  その確認をアンリがしたかどうかをリュシーは知らない。知らないけれど、無理矢理叩き起こされたりしなかったところを見るに、特に問題なく持ち帰っていたか、あるいはアンリ自身がそれにまだ触れていないかのどちらかだろう。  リュシーはそれを確かめておきたかった。 「……あった」  元が鳥であるため、リュシーは夜目が利かない。ぼんやりとした明るさがあったとしても見にくいことには変わりなく、テーブルの下まではほとんど光りも届いていないため、辛うじてバスケット(その)輪郭が目に止まった時には思わずほっとした。  けれども、引っ張り出したその蓋を開けた瞬間、 「……やっぱり」  そんな吐き捨てるような声と共に漏れたのは舌打ちだった。

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