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16.呼ばれたから(8)

「……」  ジークはアトリエに踏み入ると、ゆっくりと室内を見回した。 「――かご……」  部屋を照らす月明かりの中、浮かび上がって見えたのは窓際に佇む銀の鳥かごだった。  ジークは静かに歩み寄り、扉のないその中を覗き込んだ。  そこには何もいなかった。ただ足元に一枚の羽根が落ちていただけだ。 「青い、羽根……」  呟きながら、ジークは拾い上げたそれをぼんやり眺める。  それから少しだけ笑みを深めて、手の中のそれを大切そうにポケットにしまった。  *  *  キ、と微かな音を立てて、アンリの寝室のドアが(ひら)く。  次いでその隙間から中へと身を滑り込ませたのはジークだった。  寝るだけにしては広い部屋の窓際に、これまた一人用としては大きすぎるベッドが置かれていた。  緩やかに盛り上がったふかふかの布団が規則的に上下している。枕元に流れる朱銀の髪は見慣れたものだったが、その頭頂部を隠している三角形のナイトキャップは初めて目にするものだった。 「……アン、リ……」  そのせいか、半ば確かめるように名を口にしてしまう。  けれども、改めて意識した部屋の香りに僅かに顔を上向けると、ジークは確信を得たかのように小さく頷き、再び前へと足を進めた。  ベッドの上に腕をつき、躊躇うことなく乗り上げる。  その程度でアンリのベッドが軋むことはなく、そのままジークはアンリの傍へとにじり寄っていく。 「……は……」  先刻よりも熱を帯びた吐息が漏れる。  肌蹴かけた部屋着が肌を擽る。それだけでじれったいような掻痒感が背筋を競り上がってくる。常よりも敏感になった素肌がざわりと粟立ち、触れられてもいないのに身体のあちこちに火が灯る。  アンリの匂いが心地いい。できればもっと近くに行きたい。  そう思うたび、ジークが纏う空気も甘くなっていく。

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