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【閑話】○○しないと出られない部屋/ラファ×ギル(2)

 部屋がある塔はそれほど高くはない。  そしてその部屋には、塔の裏側に当たる部分に窓があった。人一人通れるほどの大きさのそれには、窓枠もガラスもはめられていない。  幸い、ギルベルトもラファエルも空を飛ぶことができる。 (でもそれはアンリ(あの人)も知って……)  ラファエルは外の景色が広がるその空間へと手を伸ばす。  けれども、その指先が、部屋と外界との境界を越えることはなかった。  まるで透明な壁があるかのように、物理的に弾かれてしまう。  こんなにも、外からの風や自然の匂いは入り込んでくるのに。 (……やっぱり)  これも当然、アンリの魔法のせいだ。案の定、ぬかりはないらしい。 「魔法草(マジックハーブ)の鉢植えを壊した……って聞きましたけど」  ラファエルは仕方ないように手を下ろし、改めてギルベルトに声をかけた。  部屋にはベッドやテーブルセットが置いてあり、狭いながらもゲストルームとしても使えそうな設備が整えられていた。まぁ、今だけで言うなら、軟禁室という方が正しい気もするが。  そんな状況で、気がつくとギルベルトは悠長にテーブルに用意されていたお茶と焼き菓子に手を付けていた。 「どういうことなんです?」  ラファエルは頭が痛くなるのを感じながら、ギルベルトの方へと歩いて行く。  いまのところ、外界との連絡手段も見つからないし、どうすれば出られるのかも分からない。このままでは、アンリの機嫌が直るまでずっとこのままかもしれない。  ……このギルベルト(おばかな悪魔)のせいで。  ギルベルトはかじって割ったクッキーをくわえたまま、開き直るように言った。 「勝手に壊れたんだよ」 「勝手に?」 「そう。鉢が勝手に飛んでって……」 「ばかなんですか」  いえ、知ってましたけど。  子供でももっとましな言い訳しますからね。  ラファエルは諦めたように正面の席に腰を下ろすと、まるで最初からその予定だったかのように、目の前に置かれていた二つ目のカップを手に取った。魔法のせいだろうか、まったく冷めた感じのない、温かなハーブティの香りが鼻腔を擽る。 「俺は悪くない」  ギルベルトは相変わらず不遜な態度で言葉を重ねた。

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